「福岡オフィス市場」の現況と見通し(2025年)

2025年07月02日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

1.はじめに

福岡のオフィス市場は、大規模ビルの竣工に伴い高水準の新規供給が続く一方、立地改善や設備のグレードアップを図るオフィス需要も旺盛で、空室率は安定的に推移し、成約賃料は上昇している。本稿では、福岡のオフィス市況を概観した上で、2029年までの賃料予測を行う。

2.福岡オフィス市場の現況

2.福岡オフィス市場の現況

2-1.空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、福岡市の空室率(2025年6月時点)は、4.5%(前年比▲0.1ppt)となった(図表-1)。「ONE FUKUOKA BLDG.」や「コネクトスクエア博多」などの大規模ビルが竣工した一方で、人材確保や従業員満足度の向上などを目的に、立地改善や建物設備のグレードアップを図るオフィス需要が旺盛で、空室率は前年から低下した。

福岡市の空室率を規模1別にみると、「大規模4.2%(前年比+0.3ppt)」と「大型4.0%(同+0.4ppt)」が前年から上昇した一方、「小型6.3%(同±0.0ppt)」は横ばい、「中型5.0%(同▲2.1ppt)」は低下した(図表-2)。
オフィスの需給バランスが均衡するなか、成約賃料は上昇基調にある。2024年下期の福岡市の成約賃料は、前期比+7.7%、前年比+9.3%となった(図表-3)。
2024年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、都心5区、名古屋市、福岡市で低下し、仙台市は概ね横ばい、大阪市と札幌市はやや上昇となった。また、成約賃料は、札幌市が概ね横ばい、その他の都市は上昇となった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した福岡市の賃料サイクル2は、2012 年下期を起点とした「空室率低下・賃料上昇」の局面から「空室率上昇・賃料下落」の局面へと移行していたが、足元では賃料が再び上昇している(図表-5)。
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2.オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、福岡ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、「ONE FUKUOKA BLDG.」などの大規模ビルの竣工により、74.0万坪(2023年末)から76.8万坪(2024年末)へ+2.8万坪増加した。また、テナントによる賃貸面積は、70.2万坪(2023年末)から72.6万坪(2024年末)へ+2.4万坪増加した。この結果、2024年末の空室面積は、前年比+0.4万坪増加の4.3万坪となった(図表-6、図表-7)。
2-3.空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によると、2024年末時点で賃貸可能面積が最も大きいエリアは、「博多駅前地区(23.3%)」で、次いで「天神地区(21.6%)」、「博多駅東・駅南地区(16.2%)」、「祇園・呉服町地区(15.7%)」、「赤坂・大名地区(11.6%)」、「薬院・渡辺通地区(11.5%)」の順となっている(図表-8)。

賃貸可能面積は、新規供給のあった「天神地区」(前年比+1.6万坪)や「博多駅東・駅南地区」(同+0.4万坪)等、全ての地区で増加し、福岡ビジネス地区全体では+2.8万坪の増加となった。

また、賃貸面積は、「天神地区」(前年比+0.8万坪)や「博多駅前地区」(同+0.4万坪)、「博多駅東・駅南地区」(同+0.4万坪)等、全ての地区で増加し、福岡ビジネス地区全体では+2.4万坪の増加となり、結果として、空室面積は+0.4万坪の増加となった(図表-9)。
エリア別の空室率(2025年5月時点)は、「天神地区」が9.3%(前年比+5.9ppt)と大きく上昇した一方、「赤坂・大名地区」が8.1%(同▲2.1ppt)、「祇園・呉服町地区」が5.4%(同▲2.9ppt)、「博多駅東・駅南地区」が4.4%(同▲0.9ppt)、「博多駅前地区」が2.4%(同▲3.7ppt)、「薬院・渡辺通地区」が1.8%(同▲0.2ppt)に低下した(図表-10左図)。

また、募集賃料は、全てのエリアで上昇基調にあり、特に「天神地区」(前年比+4.4%)や「博多駅東・駅南地区」(同+3.1%)において大きく上昇した(図表-10右図)。

金融研究部   上席研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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