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米個人所得・消費支出(25年5月)-個人所得と個人消費ともに前月比で減少、市場予想も下回る

2025年06月30日

(窪谷 浩) 米国経済

1.結果の概要:個人所得、個人消費ともに市場予想を下回る

6月27日、米商務省の経済分析局(BEA)は5月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比▲0.4%(前月改定値:+0.7%)と+0.8%から小幅下方修正された前月、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.3%を下回った(図表1)。個人消費支出は前月比▲0.1%(前月:+0.2%)と25年1月以来のマイナスに転じ、市場予想の+0.1%を下回った。価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)は▲0.3%(前月:+0.1%)とこちらは25年2月以来のマイナスに転じたほか、市場予想の横這いも下回った(図表5)。貯蓄率1は4.5%(前月:4.9%)と前月から▲0.4%ポイント低下した。

価格指数は、総合指数が前月比+0.1%(前月:+0.1%)と前月、市場予想(+0.1%)に一致した。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.2%(前月:+0.1%)とこちらは前月、市場予想(+0.1%)を上回った(図表6)。前年同月比は総合指数が+2.3%(前月改定値:+2.2%)と+2.1%から小幅上方修正された前月を上回った一方、市場予想(+2.3%)に一致した。コア指数は+2.7%(前月改定値:+2.6%)と+2.5%から小幅上方修正された前月、市場予想(+2.6%)を上回った(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:個人消費は関税前の駆け込み需要の剥落で自動車中心に大幅減少

個人消費(前月比)は25年1月以来のマイナスに転じた(図表1)。とくに自動車・自動車部品が▲6.1%の大幅な減少となったことが大きい。トランプ関税前の駆け込み需要で3月が+9.9%、4月が+1.6%と大幅な増加となっていたが、5月は大幅なマイナスに転じており、駆け込み需要が剥落した可能性が高い。

個人所得(前月比)も5月は21年9月以来のマイナスに転じたが、これは特殊要因に伴う社会保障の支払い増加で移転所得が+2.5%と高い伸びとなった4月の反動で5月が▲2.2%となった影響が大きい。

一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数は前月比では総合指数が前月並みの低い伸びに留まった一方、コア指数は前月から上昇した。また、前年同月比では総合、コアともに前月から上昇しており、インフレ上昇圧力が燻っていることが確認された。今後PCE価格指数は関税の影響で上昇することが見込まれており、どの程度上昇するのか今後の金融政策動向を見極める上でも注目される。

3.所得動向:移転所得は特殊要因の剥落で大幅に減少

5月の個人所得(前月比)は移転所得が▲2.2%(前月:+2.5%)と大幅なマイナスに転じた(図表2)。移転所得は24年12月に成立した社会保障公正法に基づき様々な理由で年金を満額受給していなかった退職者に給付金を支払ったことによって4月に大幅な増加となっていたが、5月は同法に基づく社会保障の支払いが一服したことで大幅な減少に転じた。それ以外の項目では自営業者所得が▲2.3%(前月:+1.2%)と前月からマイナスに転じたほか、利息配当収入が▲横這い(前月:▲0.5%)とマイナス幅は縮小したものの、2ヵ月連続のマイナスとなった。一方、賃金・給与は+0.4%(前月:+0.4%)とこちらは堅調な伸びが継続していることを確認した。

個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、5月の名目が▲0.6%(前月:+0.8%)と高い伸びとなった前月から大幅なマイナスに転じた(図表3)。価格変動の影響を除いた実質ベース(前月比)も▲0.7%(前月:+0.6%)と22年1月以来のマイナス幅に転じた。

4.消費動向:駆け込み需要の剥落で自動車・部品が大幅に減少

5月の名目個人消費(前月比)は、財消費が▲0.8%(前月:+0.2%)と前月からマイナスに転じたほか、サービス消費が+0.1%(前月:+0.2%)と前月から伸びが鈍化した(図表4)。

財消費は、耐久財が▲1.8%(前月:+0.4%)と前月からマイナスに転じたほか、非耐久財は▲0.2%(前月:▲横這い)と3ヵ月連続のマイナスとなった。

耐久財では、娯楽財・スポーツカーが+0.6%(前月:▲0.6%)と前月からプラスに転じたほか、家具・家電が+0.2%(前月:+0.2%)と前月並みの伸びを維持した。一方、自動車・自動車部品が前述のように▲6.1%(前月:+1.6%)と駆け込み需要の剥落で前月から大幅なマイナスに転じて耐久財消費全体を押し下げた。

非耐久財では衣料・靴が+1.0%(前月:▲0.4%)と前月からプラスに転じた一方、ガソリン・エネルギーが▲4.8%(前月:+1.4%)と前月からマイナスに転じたほか、食料・飲料が▲0.1%(前月:▲0.1%)と小幅ながら2ヵ月連続のマイナスとなった。

サービス消費は、娯楽サービスが+0.5%(前月:▲0.1%)と前月からプラスに転じたものの、住宅・公共料金が+0.4%(前月:+0.6%)、医療サービスが+0.3%(前月:+0.6%)といずれも前月から伸びが鈍化した。一方、輸送サービスが▲0.6%(前月:+0.3%)、外食・宿泊が▲0.7%(前月:+0.4%)と前月からマイナスに転じたほか、金融サービスが▲0.4%(前月:▲0.3%)と前月に続いてマイナスとなるなどマチマチの結果となった。

5.価格指数:エネルギー価格は前月比、前年同月比ともにマイナス

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が▲1.0%(前月:+0.5%)と前月からマイナスに転じた(図表6)。食料品価格指数は+0.2%(前月:▲0.3%)とこちらは前月からプラスに転じた。

前年同月比は、エネルギー価格指数が▲4.6%(前月:▲5.7%)と前月からマイナス幅は縮小したものの、4ヵ月連続でマイナスとなった(図表7)。食料品価格指数は+2.0%(前月:+1.9%)と概ね前月並みの伸びとなり、17年6月以降のプラスが継続した。

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩(くぼたに ひろし)

研究領域:経済

研究・専門分野
米国経済

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1999年 NLI International Inc.(米国)
 2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
 2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
 2014年10月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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