NEW

新NISAの利用実態~利用状況調査:2024年12月末時点(確報値)を踏まえて~

2025年06月26日

(前山 裕亮) 株式

5――家計全体への影響

ここで日本銀行の資金循環統計を見ると、家計の金融資産に占める株式等と投資信託の割合は、2024年末に19.4%と2023年末の17.7%から上昇しており、「貯蓄から投資へ」が進展したように見える。

ただし、2024年に家計の株式等も投資信託の残高が特に増加し、その結果、金融資産に占める割合が上昇したが、残高の増加は株式等、投資信託ともに評価益による影響が大きかった点にも留意する必要がある。株式等で28兆円、投資信託で18兆円の評価益が発生し、残高を押し上げた【図表6】。2024年の資金フローを見ると株式等は2兆円の資金流出であった。投資信託については12兆円の資金流入があり、2023年の5兆円から大きく増加している。

旧NISA口座に限らず、課税口座から新NISAへの買い替えも進んだ可能性がある。いわゆる「投資から投資へ」の資金移動も含まれており、NISA口座の買付や残高の増加と比較すると顕著な増加は見られなかった。それでも家計全体で見ても、新NISAによって「貯蓄から投資へ」が進んできている様子がうかがえる。2024年のように評価損益の変動と比較すると1年ごとの新NISAの効果は小さいと思われるが、これから効果が累積されることにより今後、「貯蓄から投資へ」が着実に進むことが期待されよう。

制度全体の累積買付額は直近の2025年3月末で59兆2,393億円に達している。2023年に資産所得倍増プランで掲げられた「5年間でNISA買付額を現在の28兆円から56兆円へと倍増させる」の政府目標の一つを、すでに達成したことを意味する。資産所得倍増プランでは「家計による投資額(株式・投資信託・債券等の合計残高)の倍増を目指す」とも記されている。今後は、NISA制度の動向とともに家計全体での投資額の推移にも注目が集まる。

6――未稼働問題も継続

6――未稼働問題も継続

NISA制度に話を戻すと、旧制度から課題となってきた未稼働口座については、2024年も改善の兆しは見られなかった。2024年には買付がなかった口座は、買付があった口座ほどではないが増加し、1,011万口座に達した【図表7】。新NISAとなっても、依然として3割以上が未稼働の状態にあり、少なくとも旧制度時代から未稼働口座が活用される動きは限定的であったと考えられる。
さらに口座開設の動きも鈍化してきている。四半期ごとのNISA口座の増加数を見ると、2024年第1四半期をピークに減少しており、制度普及のペースが減速してきている【図表8】。2025年は現状のまま推移すると1年間の口座増加数が2024年の433万の半分以下となる200万を下回る可能性がある。仮に口座増加数が200万を下回れば、2020年以来のことである。

7――最後に

7――最後に

新NISAは初年となった2024年の利用実態や家計の金融資産の状況から確認してきたように、一定の成果を上げてきた。その一方で、このままでは資産所得倍増プランで掲げられたもう一つの政府目標「5年間で、NISA総口座数を現在の1,700万から3,400万へと倍増させる」の達成が危ぶまれる。現在のペースが続くならば2027年末に3,200万口座にも届かない可能性が高い。また、仮に目標が達成されたとしても、開設された口座のうち2024年のように1,000万口座以上が未稼働であったならば、資産所得倍増プラン本来の目的が十分に果たされたとは言い難い。

さらなる制度の活用促進と資産運用の定着に向けた取り組みが、今後の重要な課題となるだろう。

金融研究部   主任研究員

前山 裕亮(まえやま ゆうすけ)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴

【職歴】
2008年 大和総研入社
2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
2022年7月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会検定会員
 ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)