4|今後の政策動向と制度整備の方向性
国家発展改革委員会は、2025年に向けてインフラ公募REIT市場の拡大と強化を図る方針を示している。具体的には、民間資本の参入を一層促進するため、持続可能な制度設計の構築、および案件情報の継続的な提示による投資機会の創出を重点政策として掲げている。また、REITを通じて民間企業の資金調達負担を軽減し、より多くのインフラプロジェクトへのアクセスを可能にすることで、投資環境の底上げを図ることを目指している
30。これらの施策を通じて、中国REIT市場の投資環境のさらなる改善が進むと見込まれる。
一方で、中国REIT市場のさらなる発展に向けては、法制度の整備が依然として重要な課題となっている。現時点REIT市場では「証券法」や「証券投資基金法」など既存の法体系が準用されているものの、REITに特化した包括的な法体系は未整備のままである。こうした状況を受けて、2023年、中国証券監督管理委員会(証監会)は「不動産投資信託基金管理条例」の立法作業を本格化させ
31、2024年に制度の策定を進める方針を示していた
32が、2024年末時点においても、具体的な制度の公表や進捗は確認されていない。2025年に向けた制度整備の見通しとしては、「重点的に検討を進め、適切な時期に公表すべき制度」として3件の法案が挙げられており、その中には「公開募集不動産投資信託の監督管理に関する暫定措置」の制定が含まれている
33。今後、この法整備が進むことで、市場の透明性が高まり、投資家の信頼が一層向上することが期待される。
税制面においては、日米におけるREIT制度は、収益の90%超を分配するなどの一定の要件を満たすことで法人段階での課税を回避し、不動産企業への直接投資と比べて、REITによる配当利回りにおける税制面の有利性を確保している。しかし、中国のインフラ公募REITでは、日米のような税制面の優位性はなく、税制面の措置に関する取り組みはまだこれからである。
2022年1月26日、中国財政部は「インフラ分野における不動産投資信託基金(REITs)パイロットプロジェクトの税制に関する公告」
34を公表したが、インフラ公募REITの運用や収益分配に関わる税務処理については、既存の税法および関連法令に則って課税が行われることが明記されているため、スキーム全体に対する法人税の包括的な免除措置は、現行制度下では実現されていない。なお、同公告では、インフラ公募REIT設立段階における資産移転に関する法人税の特例措置が明示された。オリジネーターが保有するインフラ資産を、インフラ公募REIT組成のために新設されたプロジェクト会社に移転し、その対価として当該会社の株式を取得する場合、譲渡益は発生しなかったものとみなされ、法人税は非課税という特例が認められている。また、REITの設立段階において株式譲渡によって資産価値の増加が生じた場合についても、資金調達を完了し、株式譲渡代金を支払った時点までの法人税の繰延べが可能とされている。
中国REIT市場の本格的な拡大と持続的な発展を実現するためには、法人段階での非課税措置を整備することが重要な課題であり、今後の税制改革の方向性とその具体的な制度設計については、引き続き注視が必要である。