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家計消費の動向(単身世帯の比較:~2025年3月)-節約余地が小さく、二人以上世帯と比べて弱い消費抑制傾向

2025年06月06日

(久我 尚子) ライフデザイン

■要旨
 
  • 単身世帯は全体の4割を占めて消費全体への影響力が強まっている。総務省「消費動向指数」にて単身世帯と二人以上世帯の消費動向を見ると、推移パターンは同様だが、特に2023年頃に二人以上世帯では低下傾向が強いことから、単身世帯の方が物価上昇局面での消費抑制傾向が弱いと言える。ただし、両者とも消費回復の勢いは乏しく、家計負担が増す中で将来の経済不安が依然として解消されていないことがあげられる。
     
  • 単身世帯で消費抑制傾向が弱い要因としては、(1)もともと住居費(家賃などの固定費)が消費全体に占める割合が高く、節約の余地が限られていること、(2)物価上昇局面で可処分所得の減少傾向が弱いことなどがあげられる。実際に勤労者世帯の可処分所得について、対2020年の実質増減率を見ると、二人以上世帯では低下傾向が続いているが、単身世帯では2021年・2022年と増加している。2023年以降は減少に転じたが、最近の賃上げの影響等から、2024年では減少幅が縮小している。
     
  • 消費内訳については、二人以上世帯では「食料」や「住居」、「家具・家事用品」の支出が減少傾向を示しているのに対して、単身世帯ではこれらの費目はおおむね横ばいで推移している。これには節約余地の違いがあげられる。なお、両者とも「交通・通信」や「教養娯楽」は増加傾向にあり、娯楽的な支出や、それに関連する項目に対しては、相対的に積極的な消費姿勢を示している。
     
  • 今後とも単身世帯が増えることで、世帯の消費行動や価値観は一層多様化し、従来「標準的」とされてきた家計モデルは、もはや個人消費全体を代表するものとは言い難くなる。今後は、世帯特性をより的確に捉えた商品・サービスの提供に加えて、きめ細やかな経済政策の設計が一層求められるだろう。特に、単身世帯の動向を把握することは、将来の消費構造や家計支援の在り方を考える上でも重要な視点である。


■目次

1――はじめに
 ~個人消費は足踏み状態、消費市場で存在感の増す単身世帯、全体の約4割で増加傾向
2――単身世帯の消費支出の概観
 ~二人以上世帯より消費抑制傾向は弱い、娯楽にはやや積極姿勢
  1|消費支出全体の状況
   ~抑制傾向がやや弱い、節約余地や所得減少幅が相対的に小さいことが影響か
  2|消費内訳の状況
   ~生活必需品と比べて教養娯楽にはやや積極的な姿勢
3――まとめ
 ~単身世帯の増加で多様化する消費、きめ細やかな商品提供と政策設計の必要性

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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