「名古屋オフィス市場」の現況と見通し(2025年)

2025年05月30日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

1.はじめに

名古屋のオフィス市場は、大規模ビルの竣工等に伴い高水準の新規供給が続くなか、立地改善や設備のグレードアップを図るオフィス需要も旺盛であり、空室率は低下し、成約賃料は上昇した。本稿では、名古屋のオフィス市況を概観した上で、2029年までの賃料予測を行う。

2.名古屋オフィス市場の現況

2.名古屋オフィス市場の現況

2-1.空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、名古屋市の空室率(2025年5月時点)は、3.6%(前年比▲1.2ppt)となった(図表-1)。「名古屋シミズ富国生命ビル」や「第2名古屋三交ビル」などの大規模ビルが竣工した一方、人材確保や従業員満足度の向上などを目的に、立地改善や建物設備のグレードアップを図るオフィス需要が旺盛であり、空室率は前年から低下した。

空室率をビルの規模別1にみると、「大規模2.9%(前年比▲2.0ppt)」、「大型3.8%(同▲0.3ppt)」、「中型4.6%(同▲0.8ppt)」、「小型4.4%(同▲0.03ppt)」となり、全ての規模で低下した(図表-2)。
空室率が低下するなか、成約賃料は上昇している。2024年下期の名古屋市の成約賃料は、前期比+6.6%、前年比+5.4%となった(図表-3)。
2024年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、都心5区、名古屋市、福岡市が低下、仙台市が概ね横ばい、大阪市と札幌市はやや上昇となった。また、成約賃料は、札幌市が概ね横ばい、その他都市は上昇となった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した名古屋市の賃料サイクル2は、2022年上期を起点に、再び「空室率低下・賃料上昇」局面に移行している(図表-5)。
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2.オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、名古屋ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、100.4万坪(2023年末)から101.6万坪(2024年末)へと+1.2万坪増加した。また、テナントによる賃貸面積は、94.9万坪(2023年末)から97.0万坪(2024年末)へと+2.1万坪増加した結果、2024年末の名古屋ビジネス地区の空室面積は、前年比▲0.9万坪減少の4.6万坪となった(図表-6、図表-7)。
2-3.空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、2024年末時点で最も賃貸可能面積が大きいエリアは、「名駅地区(37.2%)」で、次いで「伏見地区(26.2%)」、「栄地区(26.2%)」、「丸の内地区(10.3%)」の順となっている(図表-8)。

エリア別の賃貸可能面積の増減をみると、「丸の内地区」(前年比+0.9万坪)や「名駅地区」(同+0.3万坪)などで増加し、合計で+1.2万坪の増加となった(図表-9)。賃貸面積は、「名駅地区」(同+1.0万坪)や「丸の内地区」(同+0.8万坪)などで増加した結果、空室面積は合計で▲0.9万坪減少した。
名古屋市のエリア別の空室率(2025年4月末)は、「伏見地区5.1%(前年比▲1.2ppt)」、「丸の内地区4.4%(同▲3.3ppt)」、「栄地区3.6%(同▲0.7ppt)」、「名駅地区3.4%(同▲1.9ppt)」となり、全ての地区で低下した(図表-10左図)。

また、募集賃料は全ての地区で上昇し、「栄地区(前年比+2.7%)」や「丸の内地区(同+2.5%)」の上昇率がやや大きくなっている(図表-10右図)。

金融研究部   主任研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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