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特定大規模乗合保険募集人制度導入等に係る保険業法改正

2025年05月23日

(松澤 登) 保険会社経営

5――比較推奨販売・保険仲立人

1|乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保
報告書(p7)では乗合代理店の比較推奨販売を問題視している。本項の規制範囲は図表5の網掛け部分である。
現行法の乗合保険募集人による比較推奨販売は以下の2方法が認められている(現行規則227条の2第3項4号ロ、ハ)。
 

ロ 複数の保険会社の商品を比較して提案しようとする場合には、顧客の意向に沿った比較可能な保険契約の概要およびその提案の理由
ハ 複数の保険会社の商品を比較選別しないで提案をしようとする場合は、その提案の理由

このうち、ロは顧客の意向に沿った推奨販売であるが、ハは「特定の保険会社との資本関係やその他の事務手続・経営方針上の理由」を説明することになっている(監督指針II-4-2-9)。

報告書では「乗合代理店が保険会社からの便宜供与等の見返りとして、顧客に対して特定の保険会社の商品を優先的に推奨していたとしても、顧客に対してその理由を適切に説明していたとするならば、直ちに法令違反とはならない」と認めつつ、この様な販売方法は「顧客の適切な商品選択を阻害し得るものであり、最善の利益を勘案して誠実かつ公正に業務を遂行する義務を果たす観点からは適切な対応とは言えない」とする。

このため、報告書(p8)では、乗合代理店が比較推奨販売を行う場合には、

「・ 顧客の意向に沿って保険商品を絞り込む
・ 同保険商品の絞り込みに当たっては、顧客が重視する項目を丁寧かつ明確に把握した上で、意向に沿って保険商品を選別し、推奨する
ことを求めていくべきであり、その際の留意事項等については、今後、監督指針等において可能な限り明確化が図られる必要がある」

としている。

なお、上記現行規則のうち顧客意向以外の理由で提案する条文(上記ハ)にも一定の合理性が存在する14。この条文が今後どうなるかは注視しておきたい。
 
14 たとえば乗合代理店が、以前より長期かつ安定的に系列保険会社に媒介を行っており、かつ顧客からの信頼も得ているようなケースでは系列保険会社の商品を推奨することは肯定的に考えられるだろう。
2|保険仲立人15の活用促進
本項で述べる改正対象は図表6の網掛け部分である。
これまで改正法および報告書を見てきたが、そこでは「公正な競争のもと、いかに顧客利益を確保するか」が課題とされてきた。この点、報告書(p11)では、保険仲立人が「顧客から委託を受けて、保険会社から独立した立場から顧客に最もふさわしい保険商品をアドバイスする役割を担う」ものとしており、保険仲立人の制度活用が今回の課題の解の一つとなるだろう。

しかし報告書(p12)によれば保険仲立人の取扱い保険料のシェア率は0.9%(2023年度)に過ぎず、報告書では保険仲立人に対する規制を以下の通り改定することを提言している。

① 現行監督指針(Ⅴ―5-1)では、保険仲立人の仲介手数料は保険会社に請求することになっている。報告書(p12-p13)は仲介手数料を顧客にも請求することを認めるように提言している。なお、その場合、報告書(p13)は「保険仲立人は顧客に対して、手数料を、保険会社から全額受領するか、顧客から全額受領するか、顧客と保険会社の双方から受領するかをあらかじめ説明する」こととし、かつ、まずは企業向け保険のみを対象とすることを提言している。

② 現行法291条では、顧客に損害が発生した場合に備えて、保険仲立人は供託所に保証金を供託することとされている。供託金は過去3年間の手数料・報酬の合計額とされているが、最低額は2000万円とされている(現行令41条)。報告書(p13)はこのうち、現行法の最低額である2000万円を1000万円に下げるよう提言している。なお、供託金の額そのものは今後の活動状況を見極めたうえで改めて検討することとしている。

③ 現行監督指針(Ⅴ-4-1)では、保険仲立人と保険募集人の共同取扱いを認めていない。報告書(p14)では、「保険仲立人と保険代理店等が各々の役割及び責任分担を事前に顧客に説明する等の保険契約者の誤認防止措置」を前提として保険募集人との共同取扱いを可能にするよう提言している。

④ 現在保険仲立人が媒介可能な保険契約の中には、個別審査の上で許可を受けて外国保険業者と行おうとする保険契約が含まれていない(=顧客本人が行う(現行法186条2項))。報告書(p14)では、「保険仲立人が同許可に係る保険契約の締結の媒介を行うことを可能にする必要がある」としている。

⑤ 現行法には、保険仲立人が不祥事を起こした際の当局への届出義務は課せられていない。現行法290条において、保険仲立人の届出義務を列挙しているが、そこには不祥事報告は含まれていない。報告書(p15)では、不祥事案の届出義務を課すことを提言している。
 
15 保険仲立人(一般に保険ブローカーと呼ばれる者の保険業法上の名称)とは、顧客から指名を受け、保険会社から独立した存在として中立的な立場から、リスク分析等により見出した顧客ニーズに合致する保険の設計や提案を行い、その結果、顧客から委託を受けてその顧客のために誠実に保険契約の媒介を行う者(日本保険仲立人協会HPより引用)をいう。

6――企業内代理店

6――企業内代理店

1|企業内代理店の実態
報告書に先立つ有識者による報告書16では、企業グループが保有する企業内代理店について以下のような課題が指摘されている。
 

・ 損害保険会社の保険代理店である一方、顧客企業と人的・資本的に密接な関係を有しており、その立場は不明確である。

・ 実務能力の乏しい保険代理店であっても、グループ企業等への保険募集を行ってさえいれば、損害保険会社から一定の手数料収入が得られ、保険代理店として存続できる実態もある。

・ 損害保険会社から企業内代理店に支払われる手数料は、保険料の実質的な割引になっているおそれがある。

これを受け、金融庁において実態把握をしたところ、企業内代理店は9350社であり、各大手損害保険会社における収入保険料上位300社のうち256社が企業内代理店であった。また、企業ヒアリングによると、企業内代理店の保険募集人はごくわずか、あるいは兼務が多いという側面がある一方で、保険契約者のニーズを把握できることやリスクマネジメントに貢献している保険代理店もあるとのことであった(報告書p16~p17)。
 
16 金融庁「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」報告書(2024年6月25日)
2|企業内代理店の特定契約比率規制の見直し
現行法295条1項は損害保険代理店17について、主たる目的として自己契約(自己又は自己を雇用している者を保険契約者又は被保険者とするもの)の保険募集を行ってはならないとする。ここで主たる目的とあるのは、自己契約に係る年間保険料を募集契約全体に対する割合が100分の50を超える場合を指す(現行法同条2項)。また、監督指針II-4-2-2では「自己契約」と、「特定契約」すなわち自らと人的又は資本的に密接な関係を有する者を保険契約者又は被保険者とする保険契約を併せて100分の50を超えないこととされている。

ところでこの「自己契約」「特定契約」に係る年間保険料として、2008年施行保険業法以前から存在する損害保険募集店に対しては、自動車・火災・傷害保険に限定する経過措置がある(現行規則附則19条)。報告書(p17)ではこの経過措置を3年間の準備期間を置いて撤廃することを提言している。

また、「特定契約」の範囲について報告書(p17)では「規制の潜脱を防止する観点から、必要に応じて、その範囲の調整を検討するべきである」としている。
 
17 生命保険募集人については監督指針Ⅱ―4-2において、生命保険会社がその保険募集人に対して特別利益の提供に違反するような募集を行わないよう指導することとされている。
3|企業内代理店の特定契約比率規制からの除外
報告書(p18)では、「特定契約比率規制は、『保険料の実質的な割引・割戻しの防止』及び『損害保険代理店の自立の促進』を目的としたものであり、この2つの観点から問題がないと考えられる企業内代理店については、同規制の適用除外の枠組みを設けることが適切である」としている。そして、以下の2点を考慮して適用除外を設けることが提言されている。
 

・保険代理店として十分な実務能力を有しており、もって親会社等からの自立が図られていると認められること(一定の態勢整備の要件) 

・ 企業内代理店が受け取る手数料について、親会社等を保険契約者とする保険契約に係る保険料の実質的な割引が生じていないと認められること(手数料の適正化の要件)

なお、保険仲立人に対しても損害保険商品を販売する際に「特定契約比率規制」の適用があるが、これについても報告書(p19)では「保険仲立人が手数料を顧客から受領する場合には、顧客から委託を受けるという保険仲立人の立場が明確になることに加え、同手数料の水準にかかわらず保険料は一定であることから、このような場合には、特定契約比率規制の適用除外とすることが適切であると考えられる」としている。

7――火災保険の赤字解消

7――火災保険の赤字解消

改正予定項目は本文に記載した通りだが、報告書には最後に保険料調整行為に関連して「4.火災保険の赤字構造の改善等」が記載されている。生命保険業界とは関連性がないため簡単に解説する。そこでは、「火災保険の赤字が常態化し、ボトムライン(利益)の改善が求められるようになったにもかかわらず、損害保険会社において更改契約を落とせない等のトップラインに係る営業上のプレッシャーも強まっていた結果、リスクに応じた適切な保険料を提示することが困難になるケースもあったと考えられ、それが今般の保険料調整行為事案の背景にあったと考えられる」としている。

これを簡単に言えば、引受けても赤字となる保険であるのにかかわらず、経営上の理由から販売量を落とせないため、保険料を他社と調整することでその帳尻を合わせようとしたということだと思われる。このため、報告書(p20~p22)では以下が提言されている。
 

・リスクに応じた保険料を収受するため、参考料率の更なる見直し

・中小損害保険会社も参加できるようにするため参考純率算出および標準約款作成の対象となる保険種目の拡大

・当局による商品管理態勢等に係るモニタリングの高度化

保険料調整行為を防止するためには、各損害保険会社の営業担当者がお互いに連絡を取らないというのが最も素直で簡明な対策ではあるが、その背後にある業務の実態の改善を図ることは意味のあることだと考える。今回の改正を機として、健全な競争が促進されることを期待したい。

8――おわりにかえて

8――おわりにかえて

ここで、生命保険業界がどのようなことに留意すべきかをまとめることでおわりに代えたい。

ひとつめは、特に大規模な乗合生命保険募集人については法令遵守責任者の配置や苦情処理や顧客利益保護に関する体制整備などが求められる。整備主体は乗合生命保険募集人ではあるが、バックオフィス体制がそれほど厚くない特に大規模な乗合生命保険募集人も存在するだろう。この点、募集委託する保険会社がマニュアル作成などを通じて代理店の体制整備の方向性や保険募集人の活動の基本などを代理店に対して指導していくことが考えられる。

ふたつめは、特別利益の提供である。保険料の割引や割り戻しだけでなく、「物品の購入、役務の提供」も特別の利益として、その提供が禁止された。現時点において、生命保険の募集に関連して社会通念上不相当とされる物品購入や役務提供が確認されている事例は見当たらない。ただ、改正法施行後において、その提供の禁止される特別利益が金品に限定されていると保険募集人が誤って理解しているおそれが生じかねない。このあたり、教育の充実が望まれる。

以上の通り、損害保険業界での一部代理店の不祥事から起因した一連の事案の発生及び議論の経過を経て、法令等の改正(予定も含む)がなされた。結果として、生命保険業界にも大きな影響を及ぼすことになった。改正内容をよく確認し、実務の対応を堅実・円滑に行うことが各生命保険会社に期待される。

保険研究部   取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登(まつざわ のぼる)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴

【職歴】
 1985年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
 2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
 2018年4月 取締役保険研究部研究理事
 2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
 2025年4月より現職

【加入団体等】
 東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
 東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
 大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
 金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
 日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

【著書】
 『はじめて学ぶ少額短期保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2024年02月

 『Q&Aで読み解く保険業法』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2022年07月

 『はじめて学ぶ生命保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2021年05月

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