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原油安に拍車をかけるOPECプラス~トランプ関税の行方に影響も

2025年05月08日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

2.日銀金融政策(4月)

(日銀)現状維持
日銀は4月30日~5月1日に開催した金融政策決定会合(MPM)において、金融政策の現状維持を決定した。これまで同様、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.5%程度で推移するように促すこととした(全員一致での決定)。

声明文と同時に公表された展望レポートでは、トランプ政権による関税発動等を受けて、2025・26年度の実質成長率を大きく下方修正するとともに、物価上昇率も総じて下方修正した(下図参照)。一方で、今回から新たに開示された2027年度分については、成長率が1%まで持ち直し、物価上昇率も目標である2%付近に収束する姿が示されている。

基調的な物価上昇率については「成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩む」(その後徐々に高まる)との見通しが示され、物価目標に概ね達する時期は「見通し期間の後半」とされた。前回1月の展望レポートでも、物価目標に概ね達する時期は「見通し期間の後半」であったが、今回から見通し期間が1年延長されているため、実質的に後ろ倒しされた形だ。

さらに、リスクバランスについては、経済・物価見通しともに2025・26年度は下振れリスクの方が大きいと指摘されている。
 
会合後の総裁会見では、植田総裁が展望レポートに沿って経済・物価の見通しを説明したうえで、今後の金融政策運営について、「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、以上のような経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き、政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と発言。利上げの継続方針が維持された。ただし、「こうした見通しが実現していくかどうかという点については、各国の通商政策等の今後の展開や、その影響を巡る不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえ、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要」と慎重に確認・判断していく姿勢を強調した。
 
総裁は、基調的な物価上昇率が2%に収束していく時期について後ずれを認めた一方で、利上げのタイミングやペースについては「(基調的な物価上昇率が)いったんちょっと足踏みするようなところを経てまた上昇するという姿にやや修正しているので、その中のどこでその見通しの確度が高まったということを判断できるかというのは、なかなか難しい」、「中心的な見通し自身の確度が、これまでほどは高くないというふうに残念ながらみている。従って、例えば関税政策等について大きな動きがあるという場合には中心的な見通し自体も変わり得るし、それが将来の金融政策の動向にも影響を与える」と述べ、必ずしも後ずれするわけではないとの見解を示した。

さらに「基調的物価上昇率が伸び悩んでいるときに、無理に利上げをするということは考えていない」と述べる一方、「ただ足元は伸び悩んでいるけれども、その先いろいろな条件が重なって、また上がり出して 2%に到達する可能性がすごい高くなったなと判断した場合にはやる」と付け加えた。
 
米国の関税政策の受け止めについては、「特に4月2日の時点では、かなり悪い方に振れた。その後、若干の巻き戻しがあって、現在もうひとつ分からない状態になっている。その後、ある程度交渉の進展があるということは、見通しの中に織り込んでいるけれども、それでも無視できないレベルの関税が残るということを前提にした」と説明。具体的な関税の想定については、「これまでに議論されてきたものの中の一番極端なところにはいかない、それから全くゼロとか、10%だけで済むというよりはもう少し高いレベルに交渉の結果落ち着く程度の前提で、それぞれ具体的な姿は各委員に任されている」と補足した。

関税政策の見極めに要する時間に関して、不確実性が大きく低下する時期については、相互関税上乗せ分の猶予期間である90 日間という時間軸が「一つのポイントになる」としつつ、「そこは何とも言えないと思うし、いったん大体これでいくというふうにセットされても多少の不確実性はまだ残る」、「関税の体系が決まっても、その経済への影響というところは、これまでにない規模の関税の発動なので、なかなか不確実性は大きい」と不確実性がある程度高い状態が長引くとの認識を示した。
 
賃金と物価の好循環の基本的なメカニズムに関して、総裁は「ある程度回っている」とする一方、「(賃金上昇の)サービス価格のところへの波及がもう一つ思ったほどのところではない」との認識を示した。今後については、「深刻な労働者不足は続いているというようなこともあって、賃金と価格がお互いに相手を上昇させるという意味での好循環は継続していく」との見通しを示した。
 
なお、関税が利上げの到達点・ターミナルレートに与える影響について、総裁は、「自然利子率がどうなるかということ次第」としたうえで、「関税がずっと入るということは資源配分の効率性上はマイナスなわけだけれども、それが直ちに大きな自然利子率の、例えば、低下に結びつくという結論はすぐにはなかなか出せない」と述べるに留めた。
 
(今後の予想)
今回の展望レポートは筆者を含め大方の予想よりも大幅に下方修正された(その証拠に、同レポート公表後に市場は円安・金利低下・株高で反応)。さらに、基調的な物価上昇率が2%に達する時期も後ろ倒しされており、予想以上に日銀が先々に対して警戒感を持っている印象を受けた。トランプ関税が日銀の予想を超える規模で打ち出され、さらに不確実な状況が続くことの影響を軽視できないとの判断があったものと推測される。

一方で、植田総裁は見通しの不確実性の高さを幾度も強調し、今後の利上げのタイミングやペースについても必ずしも後ずれするわけではないとの見解を示している。物価目標達成が遅れるのであれば、利上げのペースも遅れると考えるのが自然だが、日銀としては、見通しの前提となるトランプ関税を巡る不確実が極めて高いとの認識のもと、とりあえず、政策の自由度を出来るだけ確保しておきたいと考えているふしがうかがえる。

次回の利上げ時期については、トランプ関税の動向と影響に大きく左右されるため、もちろん不確実は高いが、中心的な(筆者の)予想としては来年1月を想定している。交渉の結果で決まるトランプ関税の動向がより明確になるには時間がかかるうえ、白紙撤回が考えにくい以上、残る関税の影響を見極めるのにも数カ月の時間を要するためだ。一方、来年の1月頃になれば、関税の影響も含めてある程度見えてくる部分も増えていると期待されるうえ、構造的な人手不足を背景に、来春闘での賃上げ機運継続が見通せるようになり、利上げに踏み切りやすくなると考えられる。「円安是正を強く望むトランプ政権を刺激しないためにも、可能なら利上げしておきたい」という暗黙的な動機が日銀内で働く可能性もある。

なお、リスクシナリオにはなるが、利上げが中心的な見通しよりも前倒しされる代表的なケースとしては、「トランプ関税の早期撤回または大幅な緩和」が挙げられる。この場合は、経済への悪影響が限定的に留まるうえ、円安ドル高が進むことで利上げの前倒しが促されるだろう。ただし、7月の参院選が波乱含みであることを踏まえると、最短でも9月と見ている。

一方、利上げが後ろ倒しされる代表的なケースとしては、「トランプ関税の高水準維持またはさらなる引き上げ」が挙げられる。こうなると、米国売りによる米国債価格の下落によって世界的な金融システム不安や金融危機に発展する恐れも出てくる。この場合は、経済への悪影響が極めて大きくなるため、利上げが実質的に打ち止めとなったり、最悪のケースとしては利下げが必要になってくるだろう。

3.金融市場(4月)の振り返りと予測表

3.金融市場(4月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
4月の動き(↘) 月初1.5%近辺でスタートし、月末は1.3%台前半に。
月初、トランプ政権による大規模な相互関税発表を受けて世界経済の減速懸念が急激に高まり、安全資産の債券買いが優勢になった結果、7日には1.1%台前半まで低下した。この間には日銀による利上げ観測の後退も金利低下をサポートした。その後、相互関税の上乗せ分が90日間停止されたことでリスクオフが一服し、10日には1.3%台後半まで持ち直したが、16日には補正予算編成の見送り報道を受けた国債増発懸念の後退によって1.3%を割り込んだ。月の後半には、米中貿易摩擦の緩和観測(金利上昇要因)と米経済指標の悪化(金利低下要因)などの材料が交錯して方向感が出ず、月末にかけて1.3%を挟んだ展開が継続した。
(ドル円レート)
4月の動き(↘) 月初149円台後半でスタートし、月末は142円台半ばに。
月初、149円台で推移した後、トランプ政権による相互関税発表を受けて米景気減速懸念によるドル売りとリスクオフの円買いが同時に発生し、4日には145円台後半に急落。一方、相互関税の上乗せ分が90日間停止されたことで巻き戻しが発生し、10日には146円台後半を回復した。しかし、翌11日には米中貿易摩擦への警戒が高まり、143円台に急落。その後も日米交渉における米側からの円安是正要求への警戒や、トランプ大統領によるパウエルFRB議長批判を受けたドルの信認への不安から円高が進み、22日には一時140円を割り込んだ。月の終盤には円安是正要求の思惑後退や、米中摩擦の緩和期待を受けてやや巻き戻しが入り、月末は142円台半ばで終了した。
(ユーロドルレート)
4月の動き(↗) 月初1.07ドル台後半でスタートし、月末は1.13ドル台後半に。
月初、相互関税の発表を受けて米景気減速懸念が高まり、3日に1.11ドル付近へ急上昇。さらに米中貿易摩擦への警戒でドルが売られ、11日には1.13ドル台半ばに到達。その後はしばらく一進一退となったが、トランプ大統領によるパウエルFRB議長批判を受けてドルの信認への不安が高まったことで、22日には1.14ドル台後半を付けた。一方、24日には報道等を受けて米中貿易摩擦の緩和期待が高まったことでドルが買い戻され、1.13ドル台後半に下落。月末も1.13ドル台後半で終了した。

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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