次世代の太陽電池「ペロブスカイト」とは

2025年05月07日

(原田 哲志) 株式

1――ペロブスカイト太陽電池とは

日本では、化石燃料からの脱却による脱炭素化に向けて、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの導入が進められている。こうした中、太陽光発電の導入促進に向けて次世代の太陽電池である「ペロブスカイト太陽電池」が注目されている。ペロブスカイト太陽電池とは、ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の物質を用いた太陽電池である。従来のシリコン系太陽電池と比べて軽量で柔軟性が高く、低コスト化が見込めるといった優れた特長があり、次世代の太陽電池として期待されている(図表1)。また、軽量かつ柔軟な構造にすることができるため、建物の窓や壁、衣服など多様な場所への応用が期待されている。ただし、ペロブスカイト太陽電池は水分や熱に弱く、長期間の使用に耐えるための耐久性に課題が残されている。このため、実用化に向けた研究開発が続けられており、近い将来の本格的な普及が期待されている次世代のエネルギー技術として注目されている。

2――山がちで平地が限られた日本

2――山がちで平地が限られた日本

ペロブスカイト太陽電池は日本での太陽光発電の普及を促進する次世代技術として期待されている。現状、日本では太陽光発電の普及が政策として推進されているが、近年では拡大が鈍化している。

資源エネルギー庁によれば太陽光発電(非住宅)のFIT/FIP導入量は2014年の836.8万kWをピークに減少し、直近ではピーク時の半分以下まで落ち込んでいる (図表2)。

これは(1)固定価格買取制度(Feed-in Tariff:FIT)での電力買取価格の低下や(2)太陽光パネルを設置可能な土地や屋根の減少などが背景となっている。(1)について、2012年の制度導入以降、政府は買取価格の段階的な引き下げを実施した結果、採算性が低下し、新規参入や投資の魅力が薄れた。

(2)について、利用可能な屋根スペースや土地が既に多く活用されており、新たな適地の確保が難しくなっている。

元々、日本は国土の大部分を山地が占めており、太陽光発電パネルを設置できる場所が限られていることが背景となっている。従来のシリコン太陽電池の設置には平らで広い場所が必要となる。しかし、ペロブスカイト太陽電池は薄くて軽く、建物の壁面や窓、さらには曲面にも取り付け可能なため、都市部や限られたスペースでも活用できる。このことから、ペロブスカイト太陽電池は地理的制約のある日本での太陽光発電の普及拡大への鍵となっている。

3――従来のシリコン太陽電池での日本の失敗と課題

3――従来のシリコン太陽電池での日本の失敗と課題

ペロブスカイト太陽電池の研究・開発においては、諸外国との競争も重要な課題となる。ペロブスカイト太陽電池の研究・開発で、日本は世界で先行している状況にある。2023年時点、ペロブスカイト太陽電池に関する日本の特許の累計出願数は世界首位である1。しかし、近年では中国や韓国の出願が増えており、日本の優位性が揺らいでいる。

現在普及しているシリコン太陽電池では、当初は1973年のオイルショックをきっかけに化石燃料に依存しないエネルギー源として技術開発が進められた。これにより2000年頃には世界での日本の太陽光パネルのシェアは50%を占めるに至った。しかし、その後日本のシェアは低下し続け2022年には1%未満まで低下した2

2000年代半ばに世界市場が急拡大する中、日本は競争力を強化するための生産体制の整備に向けた投資の規模とスピードが不十分であった。こうした中、中国をはじめ海外でも先端の製造装置を導入すれば技術開発を行わなくともパネルを大量生産できる状況となったことで、日本の太陽光パネル生産の優位が失われていったことが背景となっている。

日本の優位性が失われる一方、中国企業は政府の強力な支援のもと大規模な設備投資と量産体制を整え、コスト競争力の高い製品を市場に大量投入した。

さらに、固定価格買取制度での電力買取価格の低下など日本国内の再生可能エネルギー政策が停滞したことも、企業の意欲低下や事業縮小を招き、市場競争力の低下につながった。海外展開にも課題があり、グローバル市場での存在感を次第に失った。

ペロブスカイト太陽電池の市場競争においては、こうしたシリコン太陽電池での失敗を繰り返してはならない。日本の太陽電池産業が再び国際競争力を取り戻すためには、政策支援の強化や企業間の連携、技術と生産の両面での戦略的な再構築が不可欠である。早期から将来的な海外市場への展開を見据えて、十分な規模とスピードで次世代型太陽電池の設備投資を政策支援することが必要だ。ペロブスカイト太陽電池の今後の動向に注目したい。
 
1 日本経済新聞、「曲がる太陽電池、中国猛追 特許出願はパナソニック首位」、2023年11月28日
2 経済産業省、「次世代型太陽電池戦略」、2024年11月

金融研究部   准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任

原田 哲志(はらだ さとし)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
資産運用、ESG

経歴

【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
     大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

【加入団体等】
 ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
 ・修士(工学)

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