コラム

「スター・ウォーズ」ファン同士をつなぐ“SWAG”とは-今日もまたエンタメの話でも。(第5話)

2025年04月30日

(廣瀬 涼) 消費者行動

1――May the 4th be with you

来る5月4日。この日は国際的に有名な記念日なのだが、何の日かご存じだろうか?この日は、世界中のファンにとって特別な意味を持つ「スター・ウォーズの日(Star Wars Day)」だ。その由来は、英語で「5月4日(May the Fourth)」が、シリーズを象徴する名セリフ「May the Force be with you(フォースと共にあらんことを)」と発音が似ているという、言葉遊びにある。このセリフは、ジェダイ1たちが別れ際などに使う挨拶として知られており、ファンの間でも広く定着している。

StarWars.comによると、「May the 4th(フォースと共にあらんことを)」という言葉遊びが初めて注目されたのは、1979年5月4日、イギリス初の女性首相マーガレット・サッチャーの就任時で、彼女の率いる保守党は、ロンドン・イブニング・ニュース紙に広告を掲載し、「May the Fourth Be with You, Maggie. Congratulations.」と祝福したそうだ2,3。『エピソード4/新たなる希望』公開の2年後の話だ。日本では2014年に一般社団法人・日本記念日協会によって「スター・ウォーズの日」が正式な記念日として認定されている。

この日は、例年世界各地でさまざまなイベントが開催されている。本国アメリカでは、カリフォルニアのディズニーランドで「Disneyland After Dark: Star Wars Nite」と呼ばれる特別ナイトイベントが開催される4。筆者も例年このAfter Darkパーティに足を運んでおり、その日にしか出会えないキャラクターやフード、パレードやショーなどを楽しんでいる。

日本においては2025年4月26日(土)~5月6日(火)に横浜・みなとみらいエリアで「STAR WARS DAY YOKOHAMA MINATOMIRAI 2025」5が開催され、ランドマークプラザ、MARK IS みなとみらい、グランモール公園、横浜市役所、桜木町駅周辺といったエリア全体で、キャラクターによるグリーティングやフォトスポット、ワークショップなど、様々なイベントが展開される。また、渋谷のSHIBUYA TSUTAYAでは5月4日(日・祝)~5月11日(日)まで「STAR WARS GALAXY in SHIBUYA」6が開催され、特別映像や等身大のキャラクタースタチューなどが大型展示やグッズ販売イベントも行われている。
 
1 銀河を司るエネルギー「フォース」と光刃を形成する剣「ライトセーバー」を用いて戦う、銀河の平和と自由と正義の守護者
2 Jay Wallis (WFAA) VERIFY: Yes, 'May the 4th Be With You' started from a British political ad,  May 4, 2021 , https://www.wfaa.com/article/news/verify/may-the-4th-be-with-you-originated-british-political-ad-margaret-thatcher/287-6ca76316-c2a0-432d-8dde-38a2685881a4
3 Tim Chan, Sage Anderson May the 4th Be With You: The 15 Best Merch, Toys and Collectibles for ‘Star Wars’ Fans, RollingStone, May 4, 2024, https://www.rollingstone.com/product-recommendations/lifestyle/best-star-wars-toys-gifts-collectibles-828847/
4 https://disneyland.disney.go.com/events-tours/disneyland/after-dark-star-wars-nite/
5 https://yokohama-swday.com/
6 https://starwars.disney.co.jp/news/20250410_02

2――10万人以上のファン、幕張に集う

こうした盛り上がりに先立ち、2025年4月18日から20日かけて世界最大級の公式ファンイベント「スター・ウォーズ セレブレーション ジャパン2025」が千葉・幕張メッセで開催された。日本での開催は2008年以来17年ぶり、今回が2回目となった。これは、ルーカスフィルム主催のもと、映画・ドラマ・アニメ・ゲームなど、スター・ウォーズに関わる最新プロジェクトの発表、出演俳優や制作陣によるパネルディスカッション、限定グッズ販売などが行われる一大イベントだ。1999年、ルーカスフィルムが『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』の公開を記念して、コロラド州デンバーで第1回スター・ウォーズ セレブレーションを開催したのが始まりだ。

筆者もこのイベントに参加したが、なにより強く感じたのは、海外ファンたちの熱量の高さだった。イベント開催の前々日、事前予約していたチケットを受け取りに会場を訪れた際、すでに最寄り駅の海浜幕張駅は"スター・ウォーズ一色"の空気に包まれていた。イベントがまだ始まっていないにもかかわらず、ファンたちは思い思いのコスチュームやスター・ウォーズを意識した服装に身を包み、自然とその場で語り合い、作品への愛を共有していた。イベント当日も早朝から長蛇の列ができ、来場者たちはそれぞれが目当ての展示やパネル、限定グッズを目指して整然と列を成していた。

筆者が参加した『マンダロリアン&グローグー』パネルでは、ルーカスフィルムのキャスリーン・ケネディCEO、ジョン・ファブロー監督や主演のペドロ・パスカル、映画で新キャラクターを演じるシガーニー・ウィーバーらが登壇。世界的スターを生で見るという体験も、こうしたイベントならではの魅力の一つだ。パネルディスカッションの中で「どこから来たのか」という問いかけが観客に向けられた際、明らかに日本国内よりも海外からの参加者のほうが多い印象を受けた。ルーカスフィルムの発表によると、今回の東京開催ではチケットが過去最速で完売し、来場者数は10万5,000人を突破。2023年にロンドンで開催された前回と比べて8%の増加となったという。来場者の内訳を見ると、55%がアジア太平洋地域から、47%が日本国内、31%がアメリカからの参加者であり、最終的に、125の国と地域からファンが東京に集まり、前回の64か国を大きく上回る国際的な盛り上がりとなった7。スター・ウォーズというコンテンツが、世界中に熱狂的なファンを持つことはよく知られているが、こうした大規模イベントに遠方から駆けつけるファンの行動力には改めて驚かされる。
 
7 Borys Kit, Abid Rahman, Patrick Brzeski Star Wars Celebration Announces Los Angeles as Next Location as Japan Edition Winds Down, The Hollywood Reporter, April 19, 2025 https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/star-wars-celebration-2027-los-angeles-next-location-1236196152/

3――SWAG

さて、実はこのイベント開催前、筆者のSNSタイムラインに頻繁に現れていた言葉がある――「SWAG(スワッグ)」だ。"SWAG"という言葉自体には、「〔不規則に〕揺れ動くこと」「垂れ布」「略奪品」などさまざまな意味があるが、スター・ウォーズファンコミュニティの文脈で言うSWAGとは、主にコンベンションやイベント、その他スター・ウォーズ関連の集まりで、参加者や来場者に配られるプロモーショングッズや記念品、贈り物のことを指す。その中身は、ワッペンやステッカー、ポストカードといった小物が中心だが、多くはファン自身が手作りしたオリジナルデザインのグッズである。事前にSNSで「このSWAGを配ります」と投稿し、「現地で見かけたらぜひ声をかけてください」と呼びかけるスタイルが主流だ。まさに"好き"を共有するための小さなツールであり、会場での出会いや交流を生み出すきっかけとなっている。もちろん、SWAGをもらえること自体もうれしいのだが、それ以上に大きいのは、その場にいるのが"同じものを愛する仲間"であるということだ。日常生活の中で、自分と同じ趣味を持つ人に出会うのは簡単ではない。たとえ同じ作品を好きだと言っていても、その"好き"の度合いが違ってがっかりしてしまうこともある。だからこそ、自分と同じ熱量を持つ"同族"が集まるこうしたファンイベントは、時に一生の仲間と出会える場にもなり得るのだ。SWAGは、そんな出会いのきっかけを生み出す小さなツールでもある。たとえ制作に費用や手間がかかったとしても、多くのファンが愛情を込めた自作グッズを「Stuff We All Get(みんながもらえるもの)8」として惜しみなく配っている。その背景には、「この世界を一緒に愛している」という、言葉以上に強い共感があるのだ。

SWAG文化の魅力は、最初から知っている人だけのものではない。SNSで偶然目にしたり、イベント会場でふとSWAGをもらった体験から、その存在を知る人も多い。そして次第に、「今度は自分が誰かに渡す側になりたい」と感じるようになり、受け取る側から"贈る側"へと、自然と立場が移っていく。このあたたかな連鎖こそ、ファン文化の醍醐味だ。この「好き」を分かち合う手段は、ファンダムの中で育まれたカルチャー9ではあるものの、今やそれ自体がイベントの大きな魅力のひとつとなり、なくてはならない文化として確かな存在感を放っている。

ちなみに、4月20日には次回の開催地が発表され、2027年のスター・ウォーズ セレブレーションはロサンゼルスで開催されることが決まった。この年は、映画『エピソード4/新たなる希望』が公開されてから50周年という節目の年にあたる。会場では、SWAGを交換したファン同士が「See you in L.A.!」と声をかけ合う姿があちこちで見られた。普段はSNSでも接点がない、名前も知らない相手かもしれない。けれど、「あのときのセレブレーションにも来てたよね」「今回も来てると思ってたよ」と、言葉を交わせるのが、この場の魔法だ。そんな仲間に再会できる場。それが、ファンイベントの最大の魅力なのだと筆者は感じている10
 
自分の「好き」を、全力で楽しみたい。人生をかけてそのコンテンツを追いかけたい。たとえ開催地が地球の反対側であっても、ためらわずに足を運ぶ。それが、オタクの生きざまなのだ。
 
8 SWAGにStuff We All Getという意味を込めて使用するファンもいる。
9 企業がGiveawayとしてプレゼントや限定グッズを配るという事はもちろんあったため、SWAGそのものを生み出したのはファンではない可能性の方が高いが、オリジナルのグッズを作って配るという行為そのものはファン発祥だろう。
10 特に本国においてはコミコンやD23EXPOを始めとしたスター・ウォーズ関連のファンイベントが頻繁に開催されており、コアなファン同士が顔を合わせることができる機会も多い。

生活研究部   研究員

廣瀬 涼(ひろせ りょう)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴

【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
     ニッセイ基礎研究所入社

・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会

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