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日本の産後ケアの現状と課題-令和4年度には市町村の84%で実施も利用率は10.9%、提供体制と費用負担、認知度に課題か-

2025年04月30日

(乾 愛) 医療

■要旨

本稿では、令和7年4月に施行された改正子ども・子育て支援法に位置付けられた産後ケア事業についての現状と課題を整理した。

この事業は、産後1年以内の母子を対象に、退院直後の心身のケアや育児のサポートを目的にしたもので、(1)「宿泊型」、(2)「デイサービス型」、(3)「アウトリーチ型」のいずれかの形態で提供され、医療専門職が配置されている。実施主体は市町村で、利用希望者は妊娠中に居住自治体の窓口より申請が必要である。

令和5年には全国1,547の自治体が実施しており(実施率89.5%)、産婦の利用率は令和3年に6.1%、令和4年には10.9%と1割程である。

産後ケア事業ガイドラインでは、実施主体に「都道府県の広域支援の役割」が、対象者に「ユニバーサルサービスであることへの明確化」が追加され、ケアの内容や安全に関する内容についても具体的に明記された。

産後ケア事業を展開する上での課題として、「委託先の確保と地域偏在」、「利用料の負担」「認知度」があげられる。市町村ごとに契約に関する調整が必要になることや契約事務手続きが煩雑で負荷が高いこと、産科医療機関の偏在で移動の問題などが指摘されている。また、利用料も自治体の補助額や施設の設定料に大きく左右され、妊娠・出産に係る費用を捻出した後で別途、産後の回復を促進するための費用を確保する必要がある。さらに、今後利用可能性が高い20~30歳代女性において、産後ケア事業を知らないと回答した者が45.5%を占めており、認知度向上に向けた積極的周知が必須である。今後は、提供体制の整備や費用負担の軽減、積極的周知により、産後ケア事業をさらに有効活用していく必要があろう。

■目次

1――はじめに
2――産後ケアの現状
  1|産後ケアの概要
  2|自治体の実施数と産婦の利用率
  3|産後ケア事業ガイドライン改訂ポイント
3――産後ケア事業推進に向けての課題
  1|委託先の確保と地域偏在
  2|利用料が必要
  3|若年層への積極的周知を

生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛(いぬい めぐみ)

研究領域:

研究・専門分野
母子保健・不妊治療・月経随伴症状・プレコンセプションケア等

経歴

【職歴】
2012年 東大阪市入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社

・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)

【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

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