2025年4月23日、欧州委員会は、デジタル市場法(Digital Market Act、以下、「DMA」)に違反したとして、Appleに5億ユーロ(1ユーロ160円
1として800億円)、Metaに2億ユーロ(同じく320億円)の制裁金を科すことを決定し、プレスリリースを公表した
2。
DMA第5条第4項では、スマートフォンOS提供者(具体的にはGoogleおよびApple)に対し、ユーザーがゲームや音楽アプリに関するアイテムをアプリストア外で購入することを認める義務を課している。すなわち、アプリ業者が自社サイトへユーザーを誘導(=ステアリング)して、当該サイトでユーザーが購入することをOS提供者が妨げること、いわゆるアンチステアリングを禁止する規定である。
プレスリリースでは、Appleはアプリストア外への誘導や購入を認めていたが、厳格な制限が課されていた
3。欧州委員会はこれら制限がアプリ事業者およびユーザーに利益を与えるものではないとして不遵守決定(DMA29条1項)を下した。制裁金は不遵守決定に基づいて前年度世界売り上げの 10%を超えない額で下される(DMA30条1項)ことになっており、欧州委員会は事案の重大性や期間を考慮して上記金額の制裁金を科すこととした。
注目したいのはプレスリリースで「事業者(Apple)はこれら制限が客観的に必要かつ比例的であると示すことができなかった」とあるところだ。これまでの競争法違反事件においては、特定の支配・排除行為が競争を排除するものであることを規制当局から主張立証する必要があった。しかし、DMAでは条文違反行為があると認められる場合には、その正当性・合理性を事業者側から主張立証すべきことになった。つまり立証責任がDMAの規定する範囲内では逆転したことになる。立証責任を負う側が不利となる傾向があるとも言われており、欧州委員会は強力な手段を手に入れたことが実感できるところである。
Metaに関しては、ユーザーの個人データを複数のサービス間で統合する場合には、個人の同意を得なければならないとするDMA5条2項違反が問題視されていた
4。同条はあわせて、同意をしない個人に対して、よりパーソナライズ(個人の属性を踏まえたサービスの提供をいう)されたサービスではないものの、機能的に同等のサービスの提供が求められる。
Metaは、2023年11月に「同意か有料か」という広告モデルを採用した。FacebookやInstagramのユーザーに対して、パーソナライズされた広告を表示させる選択肢と広告なしの月額サブスクリプションサービスという選択肢とを与えるものである。
このような広告モデルはパーソナライズされた広告を表示させるサービスと同等のものを、同意をしない個人に与えるものではない(=同意しないと有料になる)と欧州委員会は判断した。加えて、同広告モデルではユーザーが自由に選択肢を選べないと判断した。
欧州委員会は、この広告モデルが法的に拘束力を持った2024年3月から、新たな選択肢として導入された広告モデルに移行した2024年11月までを対象に不遵守決定を行い、重大性と違反期間を勘案したうえで上述の制裁金を科した。
ここでいう、個人データ使用に同意しないユーザーに対して、よりパーソナライズされていない広告のみを表示させる新しい広告モデルを2024年11月からMetaは開始したが、その法的評価については継続して調査することとなっている。
AppleおよびMetaは、今後60日の間に今回の理事会決定に従って制裁金を支払う必要がある。決定に従わない場合はさらに不遵守行為(DMA8条)として、定期的な制裁金(periodic penalty)を支払うおそれがあるとする(DMA31条)
5。
不遵守決定の前段階である欧州委員会による暫定的見解については、Appleについて2024年6月に、Metaについて同年7月に公表されていた。それから1年もせずに最終処分を下していることになる。そこから考えると、DMAは競争法と比較して、規制当局にとって使い勝手の良い規則であるとも言えそうである。本件は日本の制度にも示唆を与える。日本では、スマートフォン競争促進法が2025年12月に全面施行されるが、少なくともAppleのケースは同様に判断することが可能である(同法8条2号)
6。日本における今後の展開も注目されるところである。