貸出・マネタリー統計(25年3月)~貸出金利は上昇中だが、貸出残高は増勢を維持、現金・普通預金離れが進む

2025年04月11日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

1.貸出動向:伸び率は低下も地銀を中心に堅調を維持

(貸出残高)                                                                  
4月10日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、3月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.03%と前月(同3.30%)からかなり低下した(図表1)。円高による円換算額の目減りもあって2カ月ぶりに伸び率が低下したものの、伸び率の水準は自体は3%台でコロナ禍前の2019年(概ね2%台)を上回る増勢が続いている。各種コスト増加に伴う運転資金需要、M&A・不動産向けの資金需要などが寄与する形で堅調な推移が続いていると考えられる。

業態別では、都銀等の伸びが前年比2.39%と前月(2.86%)から大きく低下した。伸び率の水準は2022年8月以来の低水準にあたる。比較対象となる昨年3月に大型案件があった模様で、伸びが大きく拡大していたため、この反動も現れた形になっている。

地銀(第2地銀を含む)の伸びも前年比3.59%(前月は3.68%)とやや低下したが(図表2)、比較的高い伸びを維持している。後述の通り、日銀の利上げが波及する形で貸出金利が上昇しているため、今後の影響が注視される。

2.マネタリーベース:資金供給量の減少ペースが加速

4月2日に発表された3月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲3.1%と、前月(同▲1.8%)からマイナス幅を広げた。前年割れは7ヵ月連続で、マイナス幅は拡大傾向となっている(図表7)。

前年割れの主因は、従来同様、マネタリーベースの約8割を占める日銀当座預金の前年割れである。金融政策正常化の一環として、日銀が昨年8月から資金供給要因である長期国債買入れの減額を開始し、減額幅を徐々に拡大していることが日銀当座預金の伸び率押し下げに働いている(図表9)。また、貸出増加支援資金供給が大幅な回収超過となったことも響いた。

これに加えて、日銀券発行高の伸び率が同▲3.4%(前月は▲1.9%)とマイナス幅を広げたことも、マネタリーベースの前年割れに繋がっている(図表7)。キャッシュレス化の進展に加え、インフレによるタンス預金の目減り懸念等により、現金離れが進んでいるものと考えられる。

なお、季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、貸出増加支援資金供給回収の影響もあり、3月のマネタリーベースは前月比9.1兆円減と1月に次ぐ大幅なマイナスになっている(図表10)。

今後も資金供給要因である長期国債買入れの減額が緩やかに進められることで、マネタリーベースはじわじわと減少幅を広げていくと見込まれる。

3.マネーストック:現金・普通預金離れが進む、国債残高は急増

4月11日に発表された3月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比0.81%(前月は1.17%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同0.36%(前月は0.66%)と、ともに低下した(図表11)。M2の伸びは2006年12月以来、M3の伸びは2007年9月以来の低水準にあたる。貸出(による信用創造)は堅調に推移しているものの、財政赤字縮小やリスク性資産等への資金シフトなどが押し下げに働いているとみられる。
 
M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月1.2%→当月0.4%)の伸びが大きく低下し、全体の伸び率を押し下げた。伸び率の低下は12カ月連続となっている。また、現金通貨(前月▲2.7%→当月▲2.6%)の伸びも大幅なマイナスを続け、全体の重石となっている(図表12)。インフレが続く中で、低金利の普通預金やゼロ金利の現金を回避する動きが強まっているとみられる。現金についてはキャッシュレス化の流れも逆風になっていると考えられる。

一方、主に定期預金を意味する準通貨の伸びは前年比2.0%(前月は同1.4%)と引き続き順調に上昇し、M3の下支えになっている。伸び率は2010年4月以来の高水準にあたる。判明している2月までの内訳では、一般法人(企業)が前年比13.2%(前月は12.6%)と高い伸びを維持しているうえ(図表13)、個人の伸びも前年比▲2.2%(前月は▲2.3%)と、依然前年比ではマイナスながら、マイナス幅を縮小している。

日銀による金融政策正常化の進捗を受けて、多くの銀行が預金金利の段階的な引き上げに動いた結果(図表12)、定期預金金利の水準が上がったうえ、従来はほぼゼロであった普通預金との金利差も広がったことで(図表14)、企業や一部家計において、普通預金から定期預金へ資金をシフトする動きが広がっていると見られる。

日銀が1月にも追加利上げを実施したことを受けて、銀行は定期預金金利のさらなる引き上げに動いているため、今後とも普通預金から定期預金へのシフトが続く可能性が高い。
なお、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比3.20%(前月は3.33%)と低下したが(図表11)、M2・M3と比べると高い伸びを維持している。

内訳では、既述の通り、M3の伸びが低下基調にあるものの、規模の大きい金銭の信託(前月13.6%→当月13.2%)が高い伸びを続けているほか、預金よりも高い金利が得られる国債(前月40.4%→当月43.5%)の伸びが順調に拡大し、支えとなった。投資信託(私募やREITなどを含み企業保有分も合わせた元本ベース、前月▲4.2%→当月▲1.6%)の伸びもマイナス幅を縮小している。

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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