コラム

日本を襲う2つの荒波を乗り越えるカギ-カギを握るのは地域金融機関

2025年04月08日

(新美 隆宏) 成長戦略・地方創生

企業を経営する上での重要項目の1つがリスク管理である。日本企業・経済は今、長期と短期の2つの荒波(事業リスク)に襲われている。長期の事業リスクは人口減少、短期の事業リスクはトランプ大統領による関税政策である。いずれも事業環境に影響を及ぼす大きな構造変化であり、日本経済全体として乗り越えるためには地域金融機関がカギとなるだろう。本稿では、日本を襲う長期・短期の事業リスクと地域金融機関の役割について考えたい。
 
最初に長期の事業リスクである人口減少について考える。経済団体連合会(経団連)が昨年12月に発表した「FUTURE DESIGN 2040」では、地域ごとの総人口と生産年齢人口について、1976年と2040年を比較している。1976年(11,309万人)と2040年(11,284万人)の総人口は同程度であるため、両年の比較により地域の状況が良く分かるが、本稿では現時点(2025年、12,326万人)も含めて考えたい。これにより、1976年からの約半世紀間、2040年までの今後15年間の変化の情報も掴める。また、東京圏を加えて、一極集中の状況をより詳細に把握したい。

総人口について1976年と2040年を比較すると、首都圏(+26%)と中部圏(+1%)がプラスであるものの、他の地域はマイナス(最大は▲27%)であり、首都圏、特に東京圏(+32%)への集中が顕著である。1976年からの約半世紀間で、首都圏(+30%)、中部圏(+11%)、近畿圏(+5%)で総人口が増加したが、今後15年間では、これらの地域も含めた全地域で人口減少が見込まれ、首都圏でも▲3%、他の地域では軒並み▲10%台の減少が見込まれる(図表1)。

注目すべきは生産年齢人口である。1976年と2040年を比較すると、首都圏はプラス(+6%)、特に東京圏は+13%となっているものの、他の地域は全てマイナス(最大は▲45%とほぼ半減)となっている。マイナス幅の大きな地域は、これまでの約半世紀間でのマイナス幅が大きく、影響が加速度的に顕在化するだろう(図表2)。

これまでの半世紀間と今後15年間では、総人口と生産年齢人口ともに、変化の方向が逆向き(プラスからマイナス)であったり、同程度の変化率であったとしても、これまでより短い期間で変化が生じるためインパクトは大きい。
総人口や生産年齢人口の減少は、殆どの企業にとってマイナス要因であるが、事業基盤が地域に根差している地域金融機関への影響は非常に大きいと考えられる。生産年齢人口の減少は、預金残高の減少要因であり、同時に企業や個人向けの融資額にも減少方向で作用するため、金融機関としての規模の拡大は見込みにくい。
 
人口減少は予てから懸念されていた「灰色のサイ1」であり、地域金融機関では合併や事業提携などによる対応が進んでおり、この動きは今後も継続する(図表3)。これによりシステム統合による費用圧縮やスケールメリットなどが見込まれるが、縮小均衡となることが懸念される。並行して収益力の強化が必須であり、コンサルティングやビジネスマッチングなどによる事業支援や地域課題の解決、デジタル技術の活用による与信リスク管理の高度化などに取り組んでいる。「自らの収益力改善=地域経済の活性化」のWin-Winの関係が成立している。
次に短期の事業リスクであるトランプ大統領の関税政策2について考えたい。これは本年4月3日の早朝(日本時間)に発表されたものであり、日本政府の働き掛けにも関わらず相互関税は想定よりも厳しい24%であった。石破首相は「極めて残念で不本意だ」と述べてトップ交渉も辞さない構えだが、名指しされている自動車や米を含めての交渉は難航が予想される。経済産業省は、これを受けて地方経済産業局などに「米国自動車関税措置等に伴う特別相談窓口」を速やかに設置し、(1)セーフティネット貸付の要件緩和、(2)官民金融機関への相談呼びかけ、(3)日本貿易保険(NEXI)による資金調達等の支援、との支援策を打ち出した。今後の政府間交渉により、これまでのビジネス環境に戻ることがベストシナリオであるものの、交渉が実るかは不明であり、また要する時間も分からない。従って、この短期で生じた事業環境の変化に対する現実的な対策の検討・実施は必須であろう。

日本経済全体で考えると裾野の広い自動車産業が最大の関心事となろうが、各地域の重要産業は様々であり相互関税の影響は一様ではないだろう。地域金融機関には、上述の窓口設定による資金繰り支援が求められるが、これだけでは事業を継続する上での現実的な対策としては不十分であろう。地域に根差し、地域の実情を熟知した金融機関として、コンサルティングなどによるきめ細やかな事業支援を実施し、得られた事例や知見、ノウハウを幅広く共有しなければ、この難局を打開する道はないだろう。地域経済と地域金融機関は一心同体、地域企業を支えてこその地域金融機関である。
 
石破首相が「地方創生 2.0」を掲げる中で、地域の成長を支える地域金融機関としては満を持した機会として準備しているだろう。今回の短期の荒波は、想定外の緊急登板ではあるが、今こそ実力を示す時ではないだろうか。
 
1 将来大きな問題となる可能性が高いが、現時点では対処できていない潜在的なリスク
2 トランプの関税政策については、研究員の眼「トランプ政権の時間軸-世界や米国の有権者はいつまで我慢できるのか」などを参照

総合政策研究部   上席研究員

新美 隆宏(にいみ たかひろ)

研究領域:

研究・専門分野
金融・経済政策、企業年金、資産運用・リスク管理

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1991年 ニッセイ基礎研究所
 1998年 日本生命 資金証券部、運用リスク管理室
 2006年 ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)
 2011年 ニッセイ基礎研究所
 2015年 日本生命 特別勘定運用部、団体年金部
 2025年 ニッセイ基礎研究所(現職)

【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 認定アナリスト

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