ますます拡大する日本の死亡保障不足-「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査<速報版>」より-

2025年03月25日

(有村 寛) 保険商品

はじめに

「日本人は保険好きであり、多くの保険に入りすぎて」おり、「死亡保障マーケットは飽和状態、高齢化の進行とともに、衰退の方向」との印象もあるが、実は死亡保障不足が発生しているのではないか、ということについて、「日本の死亡保障不足は深刻なのか」(『保険・年金フォーカス』(2024年9月24日)等で紹介させていただいたところである。

今般、2024年11月末に、生命保険文化センターより、「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査<速報版>」が公表されたことから、「世帯主が加入している死亡保障金額」、「世帯主に万一があった場合に必要と考える金額」等の最新数値について見ていくこととしたい。

1――さらに減少した世帯主の死亡保険金額

1――さらに減少した世帯主の死亡保険金額

(図表1)は、世帯主の死亡保険金額(平均額)の推移を示したものである。

前回調査(2021年)では、1386万円と、1997年(2732万円)と比較すると半分近く減少していたところだが、2024年はさらに減少して、1258万円になった。
直近5回の調査結果でも減少を続けており、2024年の減少率は、なかでも比較的大きい(図表2)。

2――増加に転じた

2――増加に転じた「世帯主に万一があった場合に必要と考える生活資金」

生命保険文化センターでは、「世帯主に万一のことがあった場合に必要と考える生活資金」についても調査している。同金額については、前回までは減少傾向にあったが、今回は一転して「年間必要額」、「総額」ともに増加している(図表3)。昨今のインフレが背景にあるものと考えられる。

3――「充足率」もいっそう低下

3――「充足率」もいっそう低下

生命保険文化センターでは、「世帯主に万一があった場合に、必要と考える生活資金」(総額)に対する「世帯主の普通死亡保険金額」の割合を「充足率」と定義し、公表している。

上記の「充足率」は、これまでも減少傾向が続いてきたが、「世帯主が万一の場合に必要と考える生活資金」は増加する一方、「世帯主が加入している普通死亡保険金額」は減少していることから、今回、いっそう低下することとなった(図表4)。

おわりに

おわりに

ここ数年の生保個人保険販売業績では、新契約高はプラス進展しているが、保有契約高は微減している(図表5)。
保険金支払による消滅や満期となった契約も一定存在すると思われるが、(図表6)のとおり、解約返戻金の金額は増加しており、解約も多く発生しているものと考えられる。
上記については、インフレに伴う生活費への充当や、預貯金、新NISAへの預け替えの他(図表7)、円安のタイミングでの外貨建て商品の解約等も背景として考えられるが、死亡保障が減ることのリスクについて、十分に理解していないケースも含まれているのではないだろうか1
スイス再保険は、2020年9月に「日本の死亡保障不足はアジア先進国でも最も深刻」と指摘したが、これまで述べてきたとおり、日本における死亡保障不足は、いっそう深刻な状況になっているものと考えられる。

日本における死亡保障不足については、引き続き、注視して参りたい。
 
1 なお、ここ数年で平均貯蓄額(2021年1,454万円→2023年1,474万円)、共働き世帯割合(2021年68.8%→2023年70.1%)とも大きな変化は見られず、死亡保障の減少は、何等かの代替手段があってのことではなさそうである。
平均貯蓄額は、二人以上勤労世帯の数値。家計調査報告[貯蓄・負債編](総務省)より。
共働き世帯割合は、(1)男性雇用者と無業の妻からなる世帯、(2)雇用者の共働き世帯とした場合、(2)/((1)(2))にて算出。厚生労働省HPより。

保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛(ありむら ひろし)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴

【職歴】
1989年 日本生命入社
1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

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