2025年3月18日、日本郵政は、日本郵便がゆうちょ銀行の顧客情報を顧客に無断で流用し、かんぽ生命の保険募集に利用していたことを公表した
1。代理店が得た顧客情報を、その代理店の他の業務に利用してはいけない根拠はどこにあるのか解説したい。
前提として日本郵便はゆうちょ銀行の銀行代理業を営んでおり
2、預金の受け入れ等のサービスを提供している。同時に日本郵便はかんぽ生命の保険募集人でもある。このような場合に関係する法律としては保険業法と個人情報保護法(以下、「保護法」)がある。
保険募集に関するルールを定める保険業法300条1項9号を具体化した規定である保険業法施行規則234条1項18号イでは、保険募集人である銀行代理業者は「顧客に関する非公開金融情報を、事前に書面その他の適切な方法により当該顧客の同意を得ることなく保険募集に係る業務に利用しないことを確保するための措置」を取ることとされている
3。
すなわち、日本郵便は銀行代理業として取得した非公開金融情報を、書面等による顧客同意なしに保険募集業務に流用することは保険業法により禁止されている。これは、顧客の預金残高あるいは入金記録など、顧客が保険を購入するための資金状況に関する情報が、適切な同意なしに保険募集業務に利用されないよう規制するものである。
保険業法300条1項9号の違反行為に刑事罰は科されないが、保険業法違反行為として業務改善命令発出の根拠となる(保険業法306条)。以上が監督法上の考え方である。
つぎに保護法について考える。預金情報を含む金融情報は要配慮個人情報に該当しない(保護法2条3項、施行令2条)。このような一般の個人情報の取得は利用目的を特定・明示して顧客から金融情報を取得すればよいことになる(保護法17条1項)。ただし、明示された利用目的を超えて個人情報を取り扱う場合には顧客本人の同意が必要となる(保護法18条1項)。したがって、やはり非公開金融情報を保険募集に利用するにあたっては、保護法上も顧客の同意が必要となる。つまり保護法上も顧客同意のない非公開金融情報の流用は問題となる。
ところで、保険業法と保護法の規制が上記のようなものであるならば、非公開金融情報の取得時に、保険募集にも利用する旨の同意を同時にとればいいのではないかとの疑問が生ずるかもしれない。
この点、保険会社に関する総合的な監督指針(以下、「監督指針」)を見ると、「顧客の同意を取得する際に、当該同意の有効期間及びその撤回の方法、非公開金融情報を利用する保険募集の方式(対面、郵便等の別)、利用する非公開金融情報の範囲(定期預金の満期日、預金口座への入出金に係る情報、その他金融資産の運用に係る情報等)を顧客に具体的に明示する」とされ、かつ対面の場合であれば「非公開金融情報の保険募集に係る業務への利用について、当該業務に先立って書面による説明を行い、同意を得た旨を記録し、契約申込みまでに書面による同意を得る方法」(監督指針Ⅱ―4-2-6-2)をとることなどが求められている。
すなわち、顧客同意取得の前提として、実際の保険募集にあたり具体的に顧客の理解を得るべきことが必要とされている。したがって、預金口座開設時に形式的に保険募集に利用するとの同意文書を取得するだけでは、少なくとも保険業法上の同意要件は満たしていないと考えられる。
そうすると、上述の疑問に関しては、「そのような同意は有効ではない」という答えになるだろう。