本稿では、統計の最新値を用いて、世帯の所得分布やパワーカップル世帯数の動向について分析した。その結果、夫婦ともに年収700万円以上のパワーカップルを含む所得1,200万円以上の世帯は総世帯の約7%を占め、南関東など都市部に多く居住している傾向が見られた。
また、共働き夫婦の年収の関係を分析しところ、夫婦の年収はおおむね比例関係にあり、妻の年収が700万円以上の場合、約7割の世帯で夫の年収も700万円以上であった。一方、相対的に妻の年収が低いほど夫の年収も低くなる傾向があり、過去から指摘されてきた世帯間の経済格差の存在があらためて確認された。
また、近年、パワーカップル世帯数は増加傾向にあり、2024年では45万世帯に達し、過去10年で2倍に増加していた。総世帯に占める割合は約1%、共働き世帯では約3%と限られた層ではあるが、夫婦それぞれでの年収ではなく、世帯年収に広げて見ると100万世帯を超えており、消費市場として一定の魅力を持つ層であると言える。
さらに、夫の年収階級別に妻の労働力率を分析しところ、年収1500万円以上の高収入の夫であっても妻の6割超が就業しており、その割合は過去10年で1割以上上昇していた。若い世代ほど、出産・子育て期における就業継続の環境が整い、男性の育児休業取得も進んでいることから
8、夫婦ともに子育てをしながら働くという価値観が強まっている。その結果、夫が高収入であれば専業主婦という、これまでの価値観は弱まっているだろう。
また、近年ではパワーカップルの中でも子のいるパワーファミリーが増加しており、2024年には約7割に達していた。具体的な消費の話題については別のレポートで述べる予定だが、すでに不動産や教育、旅行、家具、家電製品といった比較的高額な商品がラインナップされている市場では、パワーカップル・ファミリーは消費のけん引役として注目されており
9、今後も活発な消費が期待される。
では、今後、パワーカップルは増えるのだろうか。そして、増えるべきなのだろうか。
短期・中期的にはパワーカップル・ファミリーは増加すると考えられる。その理由として、若い世代ほど出産・子育期を含め、キャリア形成に励むことのできる環境が整い、機会も拡大している点が挙げられる。また、40代以下の世代は女性の大学進学率が短大進学率を上回り(図表6)、上の世代と比べて女性も男性と同様に進学先や就職先を選択する機会が増えた世代だ。よって、若い世代ほど女性自身のキャリア形成意識も強まっていると見られる。加えて、夫婦ともに育児に積極的に関わろうと考える層が増え、夫も妻のキャリア継続や成長を支援しようとする意識が強まっていると考えられる。
長期的には少子化の影響も無視できないが、現状では大学進学率と比べて正規雇用者率における男女差が大きいことを踏まえると、大半が正規雇用者夫婦と見られるパワーカップル・ファミリーの裾野を広げる余地は十分にある。例えば、大学進学率の男女差は2014年で8.9%pt、2009年で11.7%ptである一方、正規雇用者の割合は25~29歳で11.0%、30~34歳で20.7%の差がある。この状況は女性の管理職比率の向上や男女の賃金格差是正を考える上で大きな課題だ。
なお、足元で、大手企業では初任給が大胆に引き上げられ、若手社員を中心に賃上げが進んでいるため、近い将来、夫婦ともに年収700万円以上との本稿における定義を見直す(上げていく)必要もあるだろう。