円相場に漂う不気味な気配~マーケット・カルテ4月号

2025年03月21日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

今月月初に1ドル150円台半ばでスタートしたドル円は、足元で149円台半ばとやや弱含んでいる。トランプ政権の関税引き上げによる米景気減速懸念が高まったほか、春闘の一次集計等を受けて日銀の早期利上げ観測が台頭したことで、一時は146円台まで円高が進んだ。一方、米国で底堅い経済指標が発表されたほか、ウクライナ停戦を巡る協議を受けてリスク選好的な円売りが入ったことがドル円の下値を支えた。

足元では投機筋の円買い越し幅が過去最大レベルに膨らんでいるが、日々金利差相当のコストが生じることを鑑みれば、長続きはしないだろう。今後は投機筋の円買い解消に伴う円売りに加え、やや行き過ぎた日銀利上げ観測が修正されることで、ドル円は一旦円安に振れると見込んでいる。一方、6月にはFRBが利下げを実施するほか、日銀の早期利上げ観測が再び台頭して円高が進むことで、3か月後の水準は150円前後になると予想している。

この間、トランプ政権によって一部関税引き上げが発動される可能性が高いが、その際のドル円への影響については、「米インフレ再燃・利下げ停止観測に伴うドル高圧力」と、「米景気減速懸念に伴う円買い圧力」が交錯して限定的になると想定している。ただし、関税引き上げは、既述の通り、ドル高材料と円高材料の両要素を内包するだけに、市場の捉え方次第でドル円が大きく動く可能性がある。投機筋の円買い越しについても、急激に取り崩されれば、強い円安圧力を生みかねない。最近のドル円は安定的に推移してきたが、波乱含みであり、不気味な気配が漂っている。

月初1.4%近辺でスタートした長期金利は、日銀の早期利上げ観測や財政拡張方針に転じたドイツの金利上昇を受けて上昇し、足元では1.5%台前半で推移している。金利上昇ペースが速かったうえ、決算期末を控え、投資家の債券購入意欲が抑制されたことも金利上昇に拍車をかけた。

既述の通り、日銀の利上げ観測はやや前のめり感があり、今後は一服が見込まれる。新年度に入れば、投資家の債券購入意欲回復も期待できるため、長期金利は4月頃に一旦やや低下すると見ている。その後、改めて日銀の利上げを織り込む形で再び上昇し、3ヵ月後の水準は1.4%台になると予想している。
(執筆時点:2025/3/21)

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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