先の国際女性デー(3月8日)に際して、女性向け就職フェアが話題となった。北京市政府、北京市人力資源社会局や北京市婦女連合会などが主催、子育てと仕事の両立支援を目指す合計480の企業が参加し、求人件数は15,000件にのぼったという
1。就職フェアでは時間や場所を柔軟に決められる在宅勤務やテレワークを中心とした合計130社・6,000件に上る求人の紹介や、両立支援のモデル企業訪問のライブ配信などもされた。今回この取組みが注目されたのは、「出産・子育て支援」×「働き方」といった新しい取組みが評価されたからであろうが、これが市政府や当局の‘お墨付き’のイベントである点にも留意する必要がある。
中国では、女性の仕事と子育ての両立を支援し、働きやすく、出産や子育てをしやすい環境の整備の促進が求められている。中国の2024年の出生数は954万人で2023年よりも52万人増加し、2017年以来初めての増加となった。その背景として、2023年に厳格なゼロコロナ政策が収束し、結婚数が増加したこと、2024年が出産に縁起が良いとされる辰年であったこと、各地方政府が出産や育児を支援する施策を発表し、出産意欲を高めたことなどが挙げられている。しかし、出産適齢期の女性人口は減少し続けている上、20代や30代前半の未婚率は上昇している。2017年以降、出生数はおよそ半減しており、今後も少子化の傾向を反転させるのは難しい状況にある。
このような状況の中、政府は2024年10月、出産・子育て支援を目指した政策、社会づくりに関する措置を発表した
2。これは家庭が抱える出産・養育・教育などの経済的な負担を軽減し、社会における出産・子育ての気運を高めることを目的としている。出産・子育てに関するサービスの強化策としては、生育保険
3の更なる活用などである。政府は今般、生育保険の対象の拡充を目指すとし、その対象を非正規労働者、農村からの出稼労働者などにまで広げるとした。加えて、これまで実施されていた産休、育休などの出産や育児に関する休暇の取得促進、子育て費用に対する個人所得税の減税などの更なる拡充を進めている。また、不妊治療の保険適用拡充、児童向け医療サービス・健康管理の強化、保育施設に関する中央政府予算の投入、地方政府が発行する特別債の活用を可能とするなどの対策がとられた。更に、出産・子育てしやすい社会を醸成するため、結婚・恋愛のプラットフォームの構築、メディアによる人口や出産・子育てに関する宣伝の強化、学校での教育、舞台劇、文学作品なども挙げている。
上掲のように、政府は従前の出産制限から一転、女性が出産・子育てしやすく、働きやすい環境の整備や社会づくりに乗り出そうとしている。では、政策が発表される一方で、女性が働きながら出産、子育てをすることをどのようにとらえているのであろうか。また、実際、どのような状況にあるのであろうか。
中国の人材サービス会社である智聯招聘による調査報告「2025年働く女性の現状調査報告」によると、女性の出産・育児は職場で感じるジェンダー不平等(男女格差)としても表出してきている(図表1)。女性が働く上で感じるジェンダー不平等において、上位3項目は「出産・育児は女性が逃れられない負担」(65.8%)、「職場における女性への見えない差別」(56.9%)、「家族政策の未整備」(51.7%)となっており、特に、女性は出産・育児、家族・家庭生活を維持していく分野において、男性よりもより強い不平等感を感じていることが分かる。
また、昇給・昇格における障害についても、女性は男性と比較して結婚・出産が不利になるといった意識がより強い(図表2)。昇給・昇格における障害について、「会社が与える昇給・昇格の機会が限定的である」(男性:52.4%、女性:56.2%)、「同様のキャリアを持つ人材が多く、競争が激しい」(男性:23.8%、女性:20.9%)などが上位に挙げられているが、いずれも男女の認識の差は大きくない。しかし、「結婚・出産の段階で昇給・昇格できなくなる」(男性:2.7%、女性:15.3%)については女性が男性よりも12.6ポイントも高くなっており、男女間においてもその意識や処遇の差が明らかとなっている。
女性は就職の面接時に結婚や出産のことを男性よりも聞かれる機会が多く、就職できたとしても折に触れて出産か仕事かといった選択を迫られるなど、出産・子育てによるキャリア形成の断絶やその危機への意識がより強いことがうかがえる。加えて、それを支える子育て関連の制度や家計を維持していく上での経済的な支援、働き方などを含めた就労支援など家族全体を対象とする家族政策の整備が追いついていない状況にある。