コラム

噴火による降灰への対策-雪とはまた違う対応

2025年03月14日

(安井 義浩) 保険計理

1――広域降灰対策の検討

今回は火山の話である。噴火の被害には、噴火した火山の周辺で石が降ってくる被害や火砕流による被害など、様々なものが予想される。当然のことであるが、麓の地域では切実感を伴って、避難方法の周知など対策をしておくことができるだろう。今回はそれとは別に、遠隔地に火山灰が降り、何らかの被害が出ることへの対策が検討中であることをお伝えする。
 
2024年6月から数回にわたって、内閣府の中央防災会議の防災対策実行会議、さらに中の大規模噴火時の広域降灰対策検討WGにおいて、富士山噴火を念頭において、降灰の影響と対策が検討されているところである1

大規模噴火が発生すると、山麓のみならず遠隔地域においても火山灰が広い範囲に堆積すると予想される。富士山噴火の場合、季節によっては西風に乗って首都圏方向に降灰があることが危惧されている。特に、都市機能が集積した首都圏広域に火山灰が堆積した場合、交通機関やライフライン施設、経済活動や社会生活にどのような影響を及ぼすのか、まだ明らかになっていない。また遠隔地域の行政機関等による対応や、降灰対策の基本方針も未整理のため、現在検討会が開催されている、ということである。
 
1「大規模噴火時の広域降灰対策について―首都圏における降灰の影響と対策― ~富士山噴火をモデルケースに~(報告)【概要】」
(令和2年 中央防災会議 防災対策実行会議 大規模噴火時の広域降灰対策検討WG)
(令和6年 首都圏における広域降灰対策検討会第1回でも使用)
https://www.bousai.go.jp/kazan/shutokenkouhai/pdf/kentokai1kai/sanko1.pdf

2――噴火による降灰被害の影響

降灰による影響にはどんなものがあるかということについては、首都圏では実感がわかないとしても、過去の事例から予想できることや、日常的に降灰のある例えば桜島(鹿児島)の噴火ではどうなのかといった経験から、これまでもいろいろと検討(想像?)はなされている。

その結果、以下のような被害が想定されている。
 
・鉄道 微量の降灰でも地上路線の運行が停止。地下路線でもそれを補う需要増や車両・作業員の不足から輸送力低下 停電地域では運行停止

・道路 視界低下により安全な運行が困難になる。道路上の火山灰による速度の低下・渋滞の発生。 降雨時の降灰でバイク等通行不可。

・物資 買占めの発生。上記の鉄道・道路事情により配送が困難となる。店舗の営業が困難となり、生活物資の入手が困難になる。

・人の移動 鉄道の運行停止と道路の渋滞により一時滞留者が発生。移動手段は徒歩のみとなり、帰宅・出勤などは困難となる。

・電力 発電所等の機器の性質上、降灰に加え一定以上の降雨で停電。火力発電所の発電量低下(例えば、吸気フィルター交換の必要頻度増加等)。それに伴う供給電力量の不足で停電。

・通信 利用者増による輻輳。アンテナへの火山灰付着による通信阻害。発電設備の不具合による通信障害。

・上水道 原水の水質悪化。浄水設備の処理能力を超えることで飲用不適や断水。停電による施設の運転停止。

・下水道 下水管路の閉塞。停電発生による施設の運転停止。

・建物 積もった火山灰による木造家屋の倒壊。
 
特に、降灰に降雨が加わると、灰が水を吸って様々な不都合が起きるようだ。

ここでは、「火山灰が積もること」による被害を想定しているためか挙げられてはいないが、航空機については、火山灰が上空に停滞しているとジェットエンジンに支障が生じるため、当然運航中止となる。

また、健康に関しても、呼吸器、眼や皮膚、消化器系統など多くの場面で被害を受けることは、素朴に想像できるだろう。

同じ積もるものでも雪と違うのは、「放っておけば、解けて(溶けて?)、あるいは蒸発して自然になくなるものではない」ということから、大量の火山灰の処理という問題がでてくる。これまでの他の噴火の扱いでは、土砂と同様に捨てられるか、埋め立てに使われることとなるが、別のやり方も検討されるようだ。

3――広域降灰への対応の検討方針

これらに対応するために留意事項として、以下のような事項が挙げられている。

・平常時:上記のような降灰の影響の周知、備蓄の必要性の周知や実際の準備

・大規模噴火前:予測が不確実なことを踏まえた早い段階からの幅広い対応準備の検討

・発生後:住民への呼びかけの仕組み 避難地域の検討 被害状況や復旧見込などの情報提供方法 大量の火山灰処理の方法
 
この検討会は進行中なので、引き続き経緯を追っていくこととしたい。

保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩(やすい よしひろ)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴

【職歴】
 1987年 日本生命保険相互会社入社
 ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
 2012年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 ・日本アクチュアリー会 正会員
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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