女性の月経関連症状に関する実態調査2024-現在月経がある者のうち3割ほどに「イライラする」と「下腹部痛」が出現、対処行動に世代間格差の可能性、配慮措置の拡充を-

2025年03月04日

(乾 愛) 医療

4|月経関連症状の実態
続いて、ここ数か月に出現した月経関連症状について当てはまるものを複数回答で尋ねた(図表4)。また、有効回答者は3,000人であるが、現在月経症状が出現していると回答された方の月経周期のうち、標準型、遅延型、早発型、月経不順(月経停止、無月経、閉経を除く)に該当する計1,909名を対象に分析をした。
その結果、「イライラする」603人(31.6%)と最も多く、次に「下腹部痛」が575人(30.1%)、続いて「当てはまるものがない」が549人(28.8%)であり、「当てはまるものがない」以外の何らかの症状がある割合が約7割にのぼっている。尚、2020年国立成育医療研究センターの1万人調査でも9、約7割が月経に関連した不調を経験していることが報告されており、多くの女性に何らかの症状が出現している傾向に変わりはない。

また、この「当てはまるものがない」と回答した549人(28.8%)のボリュームは相当な数にのぼると思われるため、その他症状を明らかにした上で再分析する必要があると考えている。ただし、今回の結果は、筆者が実施した10歳代女性を対象とした調査結果10(順位)とも相違ないものであるため、概ね月経関連症状の傾向として認識して差し支えないものと判断している。
 
9 国立成育医療研究センター(2020)「約1万人の調査で約7割が月経前に身体の不調を経験~4人に1人は月経前の何らかの症状が仕事や家事の支障に~」https://www.ncchd.go.jp/press/2020/20201126.html
10 乾愛 基礎研レポート「日本の10歳代女性における月経に伴う諸症状に関する実態調査(1)-月経不順や無月経は全体の3割近く、月経前はイライラが2割強、月経中は下腹部痛が7割も出現、対処行動は「我慢」が4割近く-」(2023年2月28日)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74017?site=nli

3――月経関連症状に対応する制度・体制と課題

3――月経関連症状に対応する制度・体制と課題

1|大学受験への配慮
2024年は、月経に関連する報道が相次ぎ、体調不良に関する配慮措置を求める声にスポットが当たった年となった。兵庫県教育委員会では、2024年度の公立高校入試において初めて、月経による腹痛や頭痛などの月経随伴症状が追試験の対象に追加され、群馬県では、受験生向けの案内に追試対象として「生理による体調不良を含む」という文言が盛り込まれた11。また、文部科学省が2025年度の大学入試要項に、推薦や合否判定の要件として出欠状況を含める場合、生理(月経)に伴う体調不良による欠席を把握した場合には、志願者の不利にならないよう配慮することが初めて明記された12。この様に、徐々にではあるが月経に関連した症状に配慮した措置が拡充してきている。

しかし、毎日新聞の調べによると、公立高校入試の追試対象に月経関連症状が含まれているかを全都道府県の教育委員会に尋ねた結果、15道府県が対象に含まれると回答したが、11府県は対象外、態度を明確にしないが21都県にのぼることが明らかにされた13。しかも、追試対象であると回答した15道府県についても、体調不良を証明する医師の診断書などの提出を明記したのは3府県に留まり、その他は基準が曖昧であることも指摘されている。一部では、受験日当日に受診ができずに診断書が取得できないことを考慮し、学校長の証明書を用いて追試対象としている場合もある。配慮事項が定められたことは一歩前進ではあるものの、対応基準の差異による格差が生じ無いように工夫する余地があろう。
 
11 神戸新聞「社説 受験と生理/理解を深め適切な配慮を」(2024年7月22日)
 https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202407/0017913047.shtml
12 文部科学省 令和7年度大学入学者選抜実施要項のポイント(令和6年6月5日付)
https://www.mext.go.jp/content/20240801-mxt_daigakuc02-000037448_5.pdf
13 毎日新聞「生理は高校入試の追試対象?対応割れた47都道府県の回答詳報」(2023年11月6日)
 https://mainichi.jp/articles/20231104/k00/00m/040/160000c
2|生理休暇
労働基準法(昭和22年法律第49号)では、第六十八条に生理休暇が定められており、就労者に対して就業義務の免除が保障されている。しかし、雇用均等基本調査によると14、女性労働者のうち2020年度中に生理休暇を請求した者の割合は0.9%と報告されており、制度はあるものの利用していない実態が明らかになっている。また、2020年度中に女性労働者がいる事業所のうち、生理休暇を請求した者が在籍していた事業者の割合は3.3%と、生理休暇を活用している事業所が少ない実態を示している。

生理休暇が利用されない理由として、日経BPの調査では15、「男性上司に申請しにくい」(61.8%)、「利用している人が少ないので申請しにくい」(50.5%)、「休んで迷惑をかけたくない」(33.9%)という結果が上位を占めていた。また、勤務先への要望として、「婦人科受験費用の補助」(33.4%)や「低用量ピルの服用支援」(30.4%)、「生理について理解を深める男性も含む全社員対象の研修」(29.6)があげられている。この結果からは、生理休暇に対する理解の醸成のための研修や休暇名が表示されない様な申請方法の工夫などの仕組みづくりが求められているのと同時に、そもそも生理に関連した諸症状で体調不良をきたすことがないように、婦人科への受診時間の確保や治療費の補助などのプレコンセプションケア支援が求められていることが分かる。企業の健康経営の観点から見ても、月経に関連した諸症状に対する予防的な介入・支援を推進することは、労働者の健康を長期的に維持するための戦略として重要な視点となり得るであろう。
 
14 厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」の結果概要https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r02/07.pdf
15 日経BP(2021年)「生理に対する女性の認識と生理休暇」https://project.nikkeibp.co.jp/bpi/atcl/column/19/021700278/

生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛(いぬい めぐみ)

研究領域:

研究・専門分野
母子保健・不妊治療・月経随伴症状・プレコンセプションケア等

経歴

【職歴】
2012年 東大阪市入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社

・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)

【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

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