成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2024年下期)-「オフィス拡張移転DI」の動向

2025年02月26日

(佐久間 誠) 不動産市場・不動産市況

三幸エステート株式会社(本社:東京都中央区、取締役社長:武井重夫)と株式会社ニッセイ基礎研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:手島恒明)は、賃貸オフィスの成約事例の各種データを活用し、オフィス市場における企業の移転動向などに関する共同研究を行っている。

本稿では、共同研究の一環として算出した「オフィス拡張移転DI」を中心に、2024年下期の東京オフィス市場の動向を概観する。オフィス拡張移転DIは、0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを示す1

東京都心部のオフィス拡張移転DIは2024年第3四半期に71%、第4四半期は72%と、コロナ禍前に迫る水準まで上昇し、オフィス需要の回復が緩やかに進展していることが伺える。以下では、オフィス成約面積の動向を振り返ったうえで、オフィス拡張移転DIを業種別およびビルクラス別に分析し、企業のオフィス需要の動向を確認する。
 
* 本稿は三幸エステート「オフィス ユーザー レポート」を加筆・修正の上、転載したものである。

1 算出方法については、末尾の【参考資料】「オフィス拡張移転DIについて」を参照。

1――企業のオフィス移転動向は引き続き堅調

1――企業のオフィス移転動向は引き続き堅調

三幸エステートの公表データによると、2024年下期の東京都心5区のオフィス成約面積は39.1万坪(前年同期比+11.1%)と前年から増加した(図表1)2。未竣工ビルの成約面積は3.9万坪(同+24.0%)、竣工済ビルは35.2万坪(同+9.8%)と増加した。これらの結果は、企業の好調な業績を背景に、オフィス移転需要が引き続き堅調に推移していることを示唆している。
 
2 三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」を参照。

2――オフィス需要の底堅い推移と市場回復の継続

2――オフィス需要の底堅い推移と市場回復の継続

1|オフィス拡張移転DIは緩やかに上昇
東京都心部のオフィス拡張移転DIは、2024年第3四半期に71%、第4四半期に72%と上昇した(図表2)3。2023年は新築ビルの供給が多かったため、オフィス拡張移転DIが70%前後で推移したものの、空室率は概ね横ばいで推移した。一方、2024年は新規供給が減少したため、空室率は2023年12月の5.15%から2025年1月には3.74%へと低下した。拡張移転DIはオフィス市場が活況を呈していた2019年の70%台後半に迫る水準まで回復し、需給の引き締まりが進むなか、市場全体も底堅い推移を見せている。
オフィス移転件数に占める拡張・同規模・縮小の比率(2024年上期→下期)は、「拡張54%→58%」、「同規模31%→28%」、「縮小15%→14%」となった(図表3)。企業業績が好調に推移し、企業の拡張意欲が高まる中でも、縮小移転の割合が小幅にしか低下しない背景には、在宅勤務の活用により、縮小移転を選択する企業が一定数存在することが影響していると考えられる。
 
3 東京都心部は、東京都心5区主要オフィス街および周辺区オフィス集積地域(「五反田・大崎」「北品川・東品川」「湯島・本郷・後楽」「目黒区」)。詳細は、三幸エステート「オフィスレントデータ2025」を参照。
2|業種別の動向に明確な傾向は見られず
2024年下期の主要業種別のオフィス拡張移転DIは、不動産業・物品賃貸業が80%、学術研究・専門/技術サービス業が79%、その他サービス業が70%、情報通信業が70%、卸売業・小売業が69%、製造業が63%という結果となった(図表4)4。同期間は、業種ごとに明確なトレンドは見られず、製造業やその他サービス業では、前期の反動による上下と見られる動きを示した。
情報通信業は、オフィス需要が底堅く推移しているものの、コロナ禍前のような力強さには欠ける。同業種におけるオフィス移転件数の比率(2024年上期→下期)を見ると、拡張移転が「47%→61%」、同規模移転が「28%→17%」、縮小移転が「25%→22%」となった。2019年には縮小移転の割合が一桁台まで低下したものの、直近では全体の2割強で下げ止まっている。この傾向は、在宅勤務との親和性が高い情報通信業において、依然として一定数の企業が縮小移転を選択していることを示している(図表5)。
 
4 業種別のオフィス拡張移転DIは、十分なデータ数を確保するため、東京都心部ではなく東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を対象とした。

金融研究部   主任研究員

佐久間 誠(さくま まこと)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴

【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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