日米貿易交渉の課題-第一次トランプ政権時代の教訓

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.335]

2025年02月07日

(矢嶋 康次) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

1―トランプ関税の日本への影響?

トランプ氏は11月25日、就任初日にメキシコとカナダの輸入品すべてに25%の関税を課し、中国には追加で10%の関税を課すことを表明した。トランプ氏は選挙期間中、すべての中国品に対して最大60%の追加関税を課す考えを示して来た。日本やそれ以外の国に対しては10-20%の関税を課し、メキシコからの輸入自動車に対しては200%超の関税を課す
ことを主張していた。

米国を代表するシンクタンクの1つであるピーターソン国際経済研究所の試算によると、米国が2025年に貿易相手国すべてに10%の追加関税を発動し、相手国から報復がないという前提のもとで、日本への影響はベースライン対比の実質GDP成長率が、2年目で▲0.14%減少と他国対比の影響は小さくなっている。

ただ、相手国からの報復措置や中国の最恵国待遇を取消し、中国に60%の追加関税を発動するなどすれば、この数倍の影響が出てくるだろう。今後の展開は、米国の要求次第で変わり得る。

2―今回交渉のポイントと見通し

前回合意した日米貿易協定では、第2段階の貿易交渉が棚上げされた状態にある。米国からは農産物などの市場開放とともに、自動車に対する要求が出て来るだろう。とりわけ自動車分野では、非関税障壁の撤廃や輸出数量規制、原産地規則の厳格化といった話が出てくる可能性は考えられる。また、為替の話が出てくる可能性も否定できない。対米輸出で黒字を稼ぐ日本にとって、厳しい交渉になることが予想される。

ただ、日米関係に重きを置いた交渉ができれば、守り一辺倒というわけでもない。日米通商協議が始まった2018年対比でみると、直近2023年の対日貿易赤字は広がったものの、米国の貿易赤字に占める割合は低下し、国別順位で見ても低下している[図表1]。また、対米直接投資は、日本が5年連続で最大の投資元となり、累積の投資残高も拡大している。防衛費も大きく拡大した。対GDP比でみた防衛関係費は、2018年対比で0.38%pt上昇している。それに伴い、米国からの防衛装備品の購入も拡大し、米軍基地駐留経費の負担も増している。
米国にとって安全保障面における日本の重要性は増している。前回交渉時には、ここまでの米中対立の激しさはなかった。米国が中国とのデカップリングを目指すとすれば、日本との関係は8年前より重要になったと言える。それを踏まえれば、日米関係が決定的に損なわれる事態が生じるとの懸念は、それほど心配しなくて良いかもしれない。

ただ、8年前と違って、第3国と米国との間に生じる問題が、日本により大きく影響する可能性があり注意を要する。

3―メキシコの自動車、中国の半導体の行方は、日本への影響が大きい

日本の自動車会社の多くは、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を前提に、安価な労働力を活用できるメキシコに工場を立地し、そこで作った製品を米国に輸出している[図表2]。外務省の調査によれば、メキシコに進出した日系企業の拠点数は1,500近くある。トランプ氏が、メキシコとの取引に関税を掛けるようになれば、現地生産のメリットは失われる。サプライチェーンの組み換えが発生し、日本の自動車会社には大打撃になる。

さらに、米中がガチンコでやり合った場合、日本から見て輸出割合の高い中国向けの輸出が、さらに鈍ることも考えられる。日本の対中輸出品目では、半導体製造装置や電子部品が大きな割合を占めている。先端品から汎用品まで規制対象が広がれば、対中輸出で稼ぐ日本のビジネスも影響を受けざるを得ない。

総合政策研究部   専務理事 エグゼクティブ・フェロー・経済研究部 兼任

矢嶋 康次(やじま やすひで)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

経歴

・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員

第54回 エコノミスト賞(毎日新聞社主催)受賞 『非伝統的金融政策の経済分析』

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