男女別にみた転職市場の状況~中高年男女でも正規雇用の転職や転職による賃金アップが増加

2025年02月05日

(坊 美生子) 高齢化問題(全般)

3-2│正規雇用への転職は何歳ごろまでできるのか
それでは、正規雇用の転職は、何歳ごろまで行われているのだろうか。正規雇用の転職者数(「正規→正規」と「非正規→正規」の合計)について、性別、年代層別に、構成割合を示したものが図表5である。まず男性では、「35歳限界説」という言葉があったように、従来、正規雇用転職者数の半数を34歳以下が占めてきた。この構成割合自体には大きな変化はなく、若い方が有利であることには変わりなさそうだが、近年は、いずれの年代層でも正規雇用の転職者数が増加している。繰り返しになるが、少子化によって若年層の採用の伸びが期待できない中で、正規雇用の中途採用が、中高年にも広がってきたと言えるだろう。

次に女性の場合、2-4でみたように、正規雇用の転職規模はもともと男性よりも小さいが、近年は、いずれの年代層でも、正規雇用の転職者数が右肩上がりに増え続けている。女性の場合、近年、いずれの年代層でも、就業率と就業者数が上昇しているためだと考えられる。年代層別にみると、特に「25~34歳」と「35~54歳」では、2013年から2023年まで過去11年の増加幅は約10万人に上り、男性の同じ年代層の伸びを上回った。男性以上に、女性に正規雇用での転職機会が広がっていることが伺える。
3-3│転職後に賃金アップする割合はどれぐらいか
次に、働く人にとって条件の良い転職がどれぐらいあるかをみるために、厚生労働省の「雇用動向調査」のデータを用いて、転職による賃金の変化についてまとめた。転職者(1年以内に離職経験あり)のうち、パートなどの短時間労働者を除く一般労働者について、前職よりも賃金が「増加した」と回答した人(以下、「増加層」)の割合の推移を男女別、年齢階級別(20歳から59歳までの5歳ごと)にみたものが図表6である。

まず男性の場合は、概ね、若いほど増加層の割合が大きい。2012年から2023年までの変化を見ると、いずれの年齢階級でも増加層は拡大しているが、特に40歳代前半までの増加幅は10ポイントから20ポイント前後と大きい。直近の2023年には、「20~24歳」と「25~29歳」では増加層が半数を超えたほか、「30~34歳」でも半数近くに達した。「50~54歳」でも約3割が増加層だった。

女性の場合、賃金増加層の割合は、最も若い20歳代が上位、50歳代が下位であることが多いが、男性ほど、年齢階級の上昇による低下傾向が鮮明ではない。直近の2023年でみると、増加層の割合が大きかった順に、1位「20~24歳」(47.6%)、2位「30~34歳」(46.5%)、3位「40~44歳」(43.2%)、4位「55~59歳」(38.6%)となっている。

2012年から2023年までの推移をみると、「35~39歳」を除くすべての年齢階級で増加層が10ポイントから20ポイントの大幅増となった。増加幅が最大だったのは「55~59歳」(20ポイント)だった。「55~59歳」については、2022年の増加層が48.5%とほぼ半数に上っており、近年の飛躍が顕著である。つまり、50歳代の女性にとっても、転職が、有力な選択肢になりつつあることを示唆していると言えるのではないだろうか。なお、女性の中で「35~39歳」のみ過去12年の増加幅がマイナスとなった理由は明らかではないが、この年代層は家事育児と仕事との両立に忙しいため、賃金アップよりも「柔軟な働き方ができること」を基準に、転職先を選んだ人が多い可能性も考えられる。

4――おわりに

4――おわりに

これまでみてきたように、人手不足の影響で、近年、転職市場が活発化し、2023年の転職者数はピーク時に迫っている。人材流動化を担っている主役は若年層かと思いきや、近年の転職者の属性を紐解くと、中高年の割合が増加し続けていることが分かった。正規雇用の転職も、中高年にも広がってきた。転職によって賃金アップする人の割合は2023年、20代男性では過半数、20~30歳代前半女性でも4~5割となっており、転職で得られるメリットも、全体的に大きくなっている。

女性に限っても、35歳以上で正社員に転職する人は近年、増加している。50歳代女性でも転職によって賃金アップする人の割合は増えてきており、中高年女性にも、転職のハードルは下がってきたと言えるだろう。

働く人にとっては、現在の職場に行き詰まりを感じている場合は、就業環境を好転させるための選択肢として、転職に目を向けても良いのではないだろうか。長寿化によって、私たちの就業人生は伸びている。高齢期まで働き、ハリのある生活を続けるためにも、やりがいを感じられる職場を見つけることは重要だろう。

近年、ダイバーシティ経営を掲げて、「シニアの活用」や「女性活躍」に着目する企業は多いが、「シニア」と言えば男性、「女性」と言えば若い女性が想定されることが多く、結果的に「中高年女性」の活用については、抜け落ちているように筆者は感じてきた。本稿を通して、中高年女性は、内部労働市場で活躍の機会が少なくても、外部労働市場に出れば、活躍のチャンスが得られる可能性があることが見えてきた。政策的にも、中高年期の女性のチャンスを広げることは、女性の老後の貧困リスクを下げるために、重要な課題だと言えるだろう。

生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子(ぼう みおこ)

研究領域:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴

【職歴】
 2002年 読売新聞大阪本社入社
 2017年 ニッセイ基礎研究所入社

【委員活動】
 2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
 2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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