老後の生活資金に影響?-DC一時金に適用される「5年ルール」見直しの背景

2025年02月03日

(高岡 和佳子) リスク管理

5――今回(2026年1月1日~)の課税ルールの見直し内容とその背景

前回と異なり、今回の課税ルールの見直しでは、通常の退職金受取に適用される前年以前「4年内」が見直しの対象となる。現行は、先に受け取った退職金等が通常の退職金かDC一時金かを問わず、前年以前「4年内」の退職金等を対象に調整することになっていたが、今回の改正では先に受け取った退職金等がDC一時金の場合に限り、前年以前「9年内」まで遡り調整対象とするといった内容である。

なお、この変更は2026年1月1日以降にDC一時金を受け取った場合であって、同日以降に通常の退職金などを受けた場合に適用される。このため、2026年以降に通常の退職金などを受けた場合でも、2025年内に受け取るDC一時金(すでに受け取っている一時金を含む)は、現行のルールが適用される。

【変更点のポイント】
1.2026年1月以降に通常の退職金を受け取ると、同年か前年以前9年内に受け取ったDC一時金が退職所得控除の調整対象となる

2.但し、2025年12月以前に受け取ったDC一時金に限り、引き続き「同年か前年以前4年内」が適用される

3.2026年1月以降に通常の退職金を受け取る場合でも、先に受け取った通常の退職金については、引き続き「同年か前年以前4年内」に限り、退職所得控除の調整対象となる

前回は、DC一時金受取の最終年齢の延長という明確な理由があったが、今回の理由はどこにあるのだろうか。考えられる理由はこれまでと同じで、DC一時金の受取時期を選択することにより多額の退職所得控除を受けることがないようにするためだろう。
高齢者の雇用機会がますます広がり、定年制のない企業や定年が65歳以上の企業が増加している(図表2)。依然として約66%の企業が60歳定年制を採用しているが、65歳定年制を採用する企業の割合も約24%に達した4
通常の退職金を61歳以降に受け取る場合、DC一時金を通常の退職金よりも先に受け取ることが可能である。そこで、60歳になる年にDC一時金を受け取るケースを考える(図表3)。
 
従来の特例(前年以前「19年内」)が適用されるのは、通常の退職金が先、DC一時金を後に受け取る場合に限られるので、今回のケースでは適用されない。つまり、DC一時金を先に受け取ると、原則の前年以前「4年内」(図表3の①)が適用される。このため、64歳になる年までに通常の退職金を受け取る人と65歳になる年以降に通常の退職金を受け取る人で、通常の退職金を受け取った際の60歳で受け取ったDC一時金の取り扱いが異なる。64歳になる年までに通常の退職金を受け取る人は60歳で受け取ったDC一時金は調整対象となるが、65歳になる年以降に通常の退職金を受け取る人は、60歳で受け取ったDC一時金は調整対象外になる。65歳になる年以降に通常の退職金を受け取る人にとっては、通常の退職金を受け取る5年以上前にDC一時金を受け取る選択をすると多額の退職所得控除を受けることが可能になってしまう。

このように、DC一時金の受取時期の選択可能期間が変わらなくても、通常の退職金の支給年齢によっては、従来の特例が適用されず、原則(図表3の①)だけでは、調整対象期間がDC一時金の受取時期の選択可能期間を完全にカバーできないケースが生じるのだ。65歳定年制を採用する企業の割合が約24%に達し、今後ますます高齢者の雇用機会が広がり、65歳定年制企業の割合の増加が見込まれる環境においては、65歳になる年に通常の退職金を受け取るケースも、調整対象期間がDC一時金の受取時期の選択可能期間を完全にカバーする必要がある。そのために、DC一時金に限り、前年以前「9年内」を調整対象とするといった、新たな特例が設けられると考えられる(図表3の②)。
 
4 厚生労働省「令和6年 高年齢者雇用状況等報告」

6――DCを一時金で受け取る場合の課税ルールの変更が繰り返される

6――DCを一時金で受け取る場合の課税ルールの変更が繰り返される

DC一時金を受け取る場合の特例が設けられている事情や、前回の課税ルールの見直しの背景を理解すると、一貫してDC一時金の受取時期を選択することにより多額の退職所得控除を受けることができなくするという目的があることがわかる。そして、今回の課税ルールの見直しの目的も同じであり、昨今の高齢者の雇用機会の広がりに伴うルール変更であるという考えにも、同意いただけるのではないだろうか。
 
今後も高齢化に伴う就業年齢の延長など社会は変化し続けるだろう。社会が変化し歪みが生じれば、課税ルールなどを変更し歪みを解消する必要がある。しかし、歪みを解消するためのルール変更であっても、変更前のルールを前提とした個人の資金計画に影響を及ぼす。このため、時の制度設計者には、過度な影響が出ない緩和措置などを講ずるといった対応を期待する。個人としては、ルール変更の影響で老後の生活に支障をきたすことがないよう備えておくべきだ。結局は、早期かつ計画的に老後の資産形成に取り組むことが重要なのだろう。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)