昨今、SNSを見ると某テレビ局の不祥事と疑われるもの(以下「本案件」)の話題一色となっている。某テレビ局は社長会見を行ったが、参加できる報道機関や取材方法を制限するなど批判も多い。
ところで筆者が特に気になったのが、本案件調査を行うのが「第三者の弁護士を中心とした調査委員会」であると報道されている
1点である。第三者委員会と言わなかったのは、日本弁護士連合会のガイドライン
2(以下、ガイドライン)の第三者委員会に該当しないからとのことのようだが、そうするとこれはいわゆる内部調査委員会(または社内調査委員会)であって、ただ、弁護士等独立の第三者が主要メンバーとなるものと推察される。
ここでは第三者委員会とは何か、内部調査委員会とはどう違うかについて解説を行う。
第三者委員会のポイントを二つ挙げる。まずは「誰のために」調査を行い、結果報告を行うのかという点である。ガイドラインでは「すべてのステークホルダー
3のために調査を実施」すると記載されている(前文)。そして企業等では、「調査報告書を、原則として遅滞なく」ステークホルダーに対して開示する(第2部第1.2.①)こととされ、かつ上場企業では「記者発表、ホームページによる全面開示が原則」とされている (注6)
4。他方、内部調査委員会方式では、このような縛りはなく、会社、もっと端的に言えば、社長又は取締役会のために調査を行い、その結果を社長等に報告するものであるといえる
5。そして報告書全体を公表するかどうか、どの部分を開示するかは企業の判断によることとなる。
次に「委員会の構成員」である。ガイドラインでは第三者委員会は「企業等から独立した委員のみをもって構成され」る(第1部前文)としている。この点に関連して、「企業等と利害関係を有する者は委員に就任することができない」(第2部第2.5.)とされ、また「第三者委員会は調査報告書提出前に、その全部または一部を企業等に開示しない」(第2部第2.3.)としている。すなわち、報告書の内容は独立した者だけで構成される第三者委員会がその権限において作成し、報告書の内容には調査対象企業は一切口をはさむことができない。
また、第三者委員会の委員である弁護士の報酬は成功報酬ではなく、客観的な時間制(タイムチャージ)とされている(第2部第6.2.)。この様に徹底して企業と委員の利害相反を排除する仕組みになっている。社内者が入れば、社内事情に詳しく、かつ役職員からの調査協力を得やすいとの考えもあろうが、隠蔽や報告書の内容の誘導もできてしまう難点があり、結果報告発表時にステークホルダーに納得を得られない原因ともなる。
ちなみに内部調査委員会あるいは第三者委員会が何を行うかについては日本取引所自主規制法人の「上場会社における不祥事対応のプリンシプル(以下、プリンシプル)
6」が参考となる。プリンシプルによると、以下を行うこととされている。
(1) 不祥事の根本的な原因の解明
(2) 第三者委員会を設置する場合における独立性・中立性・専門性の確保
(3) 実効性の高い再発防止策の策定と迅速な実行
(4) 迅速かつ的確な情報開示
このうち、特に第三者委員会に期待されるのは、(1)不祥事の根本的な原因の解明であり、プリンシプルでは「表面的な現象や因果関係にとどまることなく、その背景等を明らかにして事実認定を確実に行い、根本的な原因を解明する」とされている。原因の解明なくして再発防止策の策定もないからだ。
第三者委員会方式では、その形式上、企業と利害関係を持たない専門家だけにより作成される。したがって、その報告書の内容は企業による恣意的な内容調整を受けていないと捉えられやすい。この点、内部調査委員会方式では、ステークホルダーに納得されるものとなるかについて懸念が残る。本事案でも第三者委員会方式にすべきではなかったかと考える。
(追記)本稿脱稿後、本事案に関して第三者委員会を設置するとの報道があった
7。