日本の無痛分娩の現状と課題-無痛分娩割合は増加傾向も、追加の費用負担や産科麻酔科医の不足等に課題か-

2024年12月24日

(乾 愛) 医療


本稿については、2025年1月7日に内容を一部修正・再掲載しております。
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■要旨

本稿では、母子保健領域の専門家であり実際に無痛分娩を経験した筆者が、日本の無痛分娩を取り巻く現状を整理し、利用促進に向けての課題を提示したい。

代表的な無痛分娩の方法には、背骨の隙間から細いチューブを入れて、脊髄を覆う膜(硬膜)の外側に麻酔薬や鎮痛薬を投与することで痛みを軽減させる硬膜外麻酔と、硬膜外よりもさらに脊髄に近接するくも膜下腔に薬剤を投与する脊髄麻酔を併用したCSEAという手法があり、いずれも十分な鎮痛効果が発揮される。

無痛分娩のメリットは、(1)分娩時の痛みの緩和、(2)産後の回復の早さが挙げられる。一方、デメリットは、(1)分娩時間が長期化すること、(2)いきむタイミングが分かりにくいことが挙げられる。他にも無痛分娩による妊産婦死亡の事例が散見されるが、メリット・デメリットを十分理解した上で選択する必要がある。

近年、日本の無痛分娩割合は上昇傾向にあるが、無痛分娩が一般的な欧州と比較すると依然低い割合である。無痛分娩の利用促進課題としては、出産費用にプラスして必要な費用負担が生じることや、産科医療機関の分散、産科麻酔科医の不足などが挙げられる。今後、少子化が進み分娩件数の減少と高齢出産による周産期リスクの増大が見込まれる日本では、子どもを希望する方々が安心して出産に臨めるひとつの選択肢として、無痛分娩の提供体制に関する議論が活発化することが望まれている。

■目次

1――はじめに
2――日本の無痛分娩の現状
  1|無痛分娩とは
  2|無痛分娩のメリット・デメリット
  3|無痛分娩の国際比較
3――日本の無痛分娩の利用促進に関する課題
  1|無痛分娩にかかる費用負担
  2|分娩施設の分散と産科麻酔科医の不足

生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛(いぬい めぐみ)

研究領域:

研究・専門分野
母子保健・不妊治療・月経随伴症状・プレコンセプションケア等

経歴

【職歴】
2012年 東大阪市入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社

・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)

【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

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