グローバル株式市場動向(2024年11月)-トランプ氏の影響で米国は上昇するが新興国は下落

2024年12月13日

(原田 哲志) 株式

1――トランプ氏当選により規制緩和が期待され米国株式は上昇

11月5日、米大統領選の投開票が行われ共和党のトランプ氏が当選するとともに、同時に行われた議会選挙でも共和党が上院、下院ともに過半数の議席を獲得した。これにより、トランプ氏が主張する金融、エネルギー、AIなどの分野での規制緩和や減税が期待され米国株式は上昇した。一方で、トランプ氏が主張する関税の引き上げは特に新興国の貿易への悪影響が懸念された。代表的な世界株指数(含む新興国)であるMSCI All Country World Index (MSCI ACWI)の騰落率1は2024年11月+3.6%、過去1年(2023年12月-2024年11月)では+24.2%となっている(図表1)。

先進国と新興国を比べると、先進国が上昇する一方で、新興国は下落した。先進国(MSCI World Index)が+4.5%、新興国(MSCI Emerging Markets Index)が▲3.7%となった(図表2)。
グロース・バリューでは、グロース指数(MSCI ACWI Growth Index)が+4.3%、バリュー指数(MSCI ACWI Value Index)が+2.9%とグロース優位となった(図表3)。企業規模別では、大型株(MSCI ACWI Large Cap Index)が+3.4%、中型株(MSCI ACWI Mid Cap Index)が+4.6%、小型株(MSCI ACWI Small Cap Index)が+5.1%と小型株の騰落率が高かった(図表4)。
 
1 以下、特に断りのない限り騰落率は米ドル建、配当を除いた指数値の変化率を示す。

2――国・業種別の動向

2――国・業種別の動向

国別に見ると米国などが上昇した一方で、下落した国も多かった(図表5)。主要国について見ると、米国(+6.1%)、中国(▲4.5%)、ドイツ(▲0.2%)、日本(+0.9%)となった。騰落率が高かった国・地域はアルゼンチン(+23.8%)、パキスタン(+14.3%)、イスラエル(+7.4%)だった。一方で、インドネシア(▲8.0%)、フィリピン(▲7.9%)、ブラジル(▲7.2%)の騰落率が低かった。

米国は大統領選に当選したトランプ氏が唱える減税・規制緩和が期待され上昇した。

日本では、月前半には米国株の上昇を受け上昇したが、その後トランプ氏が中国やメキシコなどに対する関税に言及したことを市場は警戒し輸出銘柄を中心に下落した。月間では円建てで小幅下落となった。ただし、月後半には日銀による利上げ期待から円高が進行したことにより、ドル建てでは小幅上昇となった。

中国は、トランプ氏が唱える対中関税60%への引き上げによる対米輸出への悪影響が懸念されたことや政府による景気対策が期待外れに終わったことから下落した。

アルゼンチンでは、ハビエル·ミレイ大統領が物価安定を目指した政策の実施を続けている。ミレイ大統領が就任した2023年12月以降前年比200%を上回る物価上昇が続いていたが、10月の消費者物価指数は前年比193%上昇(前月比2.7%上昇)に鈍化した2。こうした物価安定による経済正常化や規制緩和への期待から株式市場は上昇した。しかし、財政再建に向けた緊縮政策は国民の生活を圧迫していることからミレイ大統領の支持率は低下しており、今後の政権運営が懸念されるリスクもある3

トランプ氏の当選により、ドル高が進行する一方で、関税引き上げなど保護主義的政策の貿易への悪影響が懸念された新興国の通貨は軒並み下落した。インドネシアでは、通貨ルピアが下落したことや11月5日に公表された2024年7~9月期の国内総生産(GDP)が前年同期比+4.95%と、消費の伸び悩みにより4~6月期の+5.05%から鈍化したことが嫌気され下落した4
業種別に見ると、自動車・自動車部品(+14.2%)、ソフトウェア・サービス(+9.1%)、その他金融(+8.9%)の騰落率が高かった。一方で、医薬品・バイオテクノロジー(▲4.0%)、素材(▲2.0%)、食品・飲料・タバコ(▲1.8%)の騰落率が低かった(図表6)。
 
2 ロイター通信、「アルゼンチン、10月インフレ率193% 1年ぶりの低水準」、2024年11月13日
3 日本経済新聞、「アルゼンチン、急進改革に代償 財政改善の裏で貧困拡大」、2024年10月23日
4 日本経済新聞、「インドネシア成長減速 7~9月、4.95% 家計消費に陰り」、2024年11月6日

3――世界の主要企業の株価動向

3――世界の主要企業の株価動向

世界の主要な企業の株価はまちまちとなった(図表7)。時価総額上位30位までの企業では、テスラ(+33.0%)、ネットフリックス(+16.8%)、ウォルマート(+13.2%)のリターンが高かった。一方で、イーライリリー(▲11.8%)、ブロードコム(▲9.6%)、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(▲8.2%) のリターンが低かった。米大統領選では、テスラのCEOであるイーロンマスク氏が支援したトランプ氏が当選した。このことから、支援への見返りとしてトランプ氏の次期政権下でのイーロンマスク氏が率いる企業への優遇が期待されテスラは上昇した5。米国ではトランプ次期大統領がワクチンに懐疑的なロバート・ケネディ・ジュニア氏を保健福祉省長官に指名した。これにより、イーライリリーをはじめとした製薬会社やバイオテクノロジー企業が下落した6
 
5 ロイター通信、「テスラ時価総額1兆ドル台、約2年ぶり トランプ次期政権下で優遇か」、2024年11月9日
6 Forbes Japan、「製薬会社の株価下落、ケネディの米保健福祉省長官就任指名で 阻止する動きも」、2024年11月17日

4――今後の見通しと注目されるテーマ

4――今後の見通しと注目されるテーマ

11月のグローバル株式市場は米大統領選に当選したトランプ氏の政策が様々な影響を与えた。規制緩和や減税への期待により米国株が上昇した。一方で、関税引き上げの懸念から新興国株式が下落した。また、ワクチンへの否定的な姿勢から医薬品・バイオテクノロジー関連銘柄が下落した。

トランプ氏の主な政策としては、(1)減税・規制緩和、(2)関税引き上げ、(3)移民制限、(4)環境対策の縮小、(5)同盟国への軍事負担増の要求などが挙げられる。今後、こうした政策が各国の株式市場に影響を与えていくことが考えられる。ただし、これらの政策が実現していくかには不確実性がある。関税の引き上げについては対中関税60%と各国一律10%が掲げられているが、これは米国の物価上昇や経済への悪影響が大きいと予測されており、目標通りの実施には疑問が持たれている。また、中国との関税引き上げの応酬となった場合、世界経済の失速につながりかねないリスクがある。こうした不確実性の高まりは世界の株式市場の重石となり、特に貿易依存度の高い国や経済に脆弱性のある国へのリスクとなるだろう。今後の米国や中国、主要国の政策動向に注目したい。
 
 

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金融研究部   准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任

原田 哲志(はらだ さとし)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
資産運用、ESG

経歴

【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
     大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

【加入団体等】
 ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
 ・修士(工学)

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