近年、多国籍企業のサプライチェーンにおける労働者の人権侵害(児童・強制労働など)や環境破壊(森林伐採など)に対する意識が特に高まっている。そのような中、企業のサプライチェーン全体での責任を明確化し、これらの問題を解決するためのフレームワークとして、2024年4月に欧州議会で採択されたEU/CSDDD(Corporate Sustainability Due Diligence Directive)が話題としてあがった。EU/CSDDDは、強制力を持たないUNGPs(UN Guiding Principles on Business and Human Rights)を法的拘束力があるものに昇華させた位置付けである。デューデリジェンスを義務付ける点や人権の特定・評価する点はUNGPsと同様である一方、人権に加え環境のデューデリジェンスも義務づけている点や、サプライチェーン全体をスコープと捉える点はUNGPsとは異なる。EU/CSDDDが採択されたことで、個別の企業や産業を超えた広範囲な影響を及ぼすシステムレベル・リスクをより包括的に解決する道筋が作られることが期待されている。一方、EU/CSDDDは歓迎すべき進展だが、導入に向けた準備ができている企業は非常に限定的であることも指摘され、2026~2027年にかけて各国で運用が開始されるまでの道のりは長いことが課題として残る。