トランプ再選後の円相場、揺らぐ円高シナリオ~マーケット・カルテ12月号

2024年11月20日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

今月月初に1ドル152円台でスタートしたドル円は、中旬に一時156円台まで円安が進み、足元でも155円前後とドルが高止まりしている。米大統領選でトランプ前大統領の再選が決まったうえ、議会上下院でも共和党が過半を確保(いわゆる「トリプルレッド」が成立)したことで、トランプ氏の掲げる政策(減税・規制緩和・関税引き上げ・不法移民の強制送還など)の実現によるインフレ再燃への思惑が高まり、米金利上昇を通じてドルが買われたためだ。

米大統領選前には、FRBの利下げと日銀の利上げが共に続くことを理由に、先行きにかけて円高ドル安になると予想する市場参加者も多かったが、トリプルレッドが成立したため、トランプ政権の出方次第でシナリオは大きく変わり得ることになった。今後はトランプ氏の掲げる政策のうちの「どれが」、「どの程度」、「いつ」実現し、「米国の物価動向と金融政策にどの程度の影響を与える」のかという点がドル円にとって息の長いテーマになる。トランプ氏の政策はインフレ促進的で利下げの逆風になるものが多いため、従来想定されていたよりもドルが高止まりしやすくなり、大幅な円高は進みづらくなったと言えるだろう。

今後3カ月間を見通した場合も、米国のインフレ再燃への思惑が燻り、ドルを支えると考えられる。ただし、トランプ氏の政策には貿易摩擦の激化や財政赤字の拡大などドル安に繋がり得る要素も一部含まれていること、FRBは当面利下げを続ける可能性が高いこと、日銀は来年1月までに追加利上げに踏み切ると見込まれることから、円が多少強含むと見ている。市場の思惑が振れやすいため不確実性は高いものの、3カ月後の水準は153円前後を想定している。

月初0.9%台半ばでスタートした長期金利は、足元で1.0%台半ばに上昇している。トリプルレッドの成立を受けた米長期金利上昇が波及したうえ、円安の進行を背景に日銀の利上げ観測が持ち直したためだ。

今後は、米国のインフレ再燃への思惑が燻り、米長期金利を支えるなかで、日銀による追加利上げと段階的な国債買入れ減額が金利上昇を促すだろう。3ヵ月後の水準は1.1%強と予想している。
 
(執筆時点:2024/11/20)

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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