Z世代の消費志向とサステナブル意識-経済・社会的背景から見た4つの特徴

基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.332]

2024年11月08日

(久我 尚子) ライフデザイン

1―Z世代の育った経済・社会背景

消費に関わる価値観の形成には、自分でお金を使う楽しさを知るようになった時期に、どのような経済・社会環境にあったかが、大きな影響を与えると考えられます。例えば、バブル世代は経済成長を背景に、物質的な豊かさを追求し、ブランド志向が強い傾向があります。

一方でZ世代はバブル崩壊後の景気低迷期に、リーマンショックや東日本大震災も生じる中で誕生しました[図表1]。
流行語を見ると、Z世代の前半が高校生になる頃には「アベノミクス」や「爆買い」が話題となり、20年間低迷していた日経平均株価が上向き始めました。その後「親ガチャ」や「悪い円安」も注目され、「マタハラ」「保育園落ちた日本死ね」「(高齢者の自動車)免許返納」といった社会課題も浮上しました。

つまり、Z世代は、幼少期に経済的な不安定さや格差を目の当たりにし、思春期から青年期にかけては、経済面で明るい兆しを感じる一方、少子高齢化が進行する中で、働き方や価値観の変化、新たな社会課題にも直面しています。よって、経済情勢が改善されても、消費に慎重な姿勢を持つ傾向が強いでしょう。

一方で、Z世代の成長とともに進化し続けてきたのがデジタル領域です。Z世代は小学校高学年頃からスマートフォンを持ち始め、中高生になるとInstagramやTikTokなどのSNSを利用し、キャッシュレス決済にも自然と馴染んでいます。大学生や社会人になる頃には生成AIが登場し、彼らの生活や働き方に大きな影響を与え始めています。つまり、デジタルツールの活用はZ世代の価値観や行動様式に深く根付いており、経済・社会的背景とともに彼らの価値観を形作る重要な要素となっています。

2―4つの消費志向とサステナ意識

このような背景を踏まえると、Z世代には4つの消費志向が浮かび上がります[図表2]。デジタルネイティブの彼らは、SNSやインフルエンサーの影響を大きく受け、様々な商品と膨大な情報が巡る消費社会では、コスト/タイムパフォーマンスを重視する傾向が強く(デジタル志向)、心に残るような体験に価値を見出す傾向があります(体験志向)。
ただし、SNSを通じて、どのような体験でも既視感を覚えやすくなる中で、再現性が低く、特別感のあるトキ消費に価値を見出す傾向も強いようです。

さらに、選択肢が豊富にある中ではパーソナライズ志向も高いでしょう。データ社会では企業は属性や行動履歴に基づいて個人のニーズに合わせた商品を提供できるようになっています。Z世代は企業の柔軟な対応を活かして、自分らしさを表現することにも長けています。

また、Z世代はエシカル志向や社会貢献意識の高さでも注目されることが多いようです。ただし、これには注意が必要です。確かに若者同士で比べれば、Z世代はバブル世代や団塊世代と比べてエシカル志向は高いかもしれません。しかし、現時点で比べると、若者よりシニアの方がサステナブル意識は強いのです*

よって、企業が即効性を求めて情報拡散や好感度の向上を狙う場合には、情報発信力の高いZ世代へのアプローチが効果的ですが、商品の購入となるとシニアの方が可能性は高いのかもしれません。

将来的には、すべての消費者にとってサステナビリティという観点が消費行動の土台となると考えられますが、現時点では年代によって意識と行動には隔たりが見られます。そのため、各層の特徴をしっかりと捉え、適切なアプローチを行うことが求められます。
 
* 久我尚子「サステナビリティに関わる意識と消費行動(1)」、ニッセイ基礎研レポート(2023/09/15)など。

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)