なぜ「今」BeRealを撮影する必要があるのだろうか-BeRealに関する私論的考察

2024年10月31日

(廣瀬 涼) 消費者行動

5――半数が授業中やアルバイト中にBeRealの撮影経験あり

さて、自身が投稿しないと他人の投稿が見れないという制限がある故に、他のSNSの投稿状況とを比較するとBeRealのアクティブユーザー数は顕著だ。株式会社マーケティングアプリケーションズが行った「SNS調査」によれば、写真・動画投稿系3つのSNSにおいて「毎日1回~数回」投稿すると答えた割合は、BeRealが29.0%、Instagramが13.4%、TikTokが9.7%と、BeRealは、最も高くなっている。また、「月に1回以上」投稿していると回答した割合もBeRealが63.4%、Instagramが52.6%、TikTokが27.8%と、BeRealが最も多い。
このようなルールがユーザーの積極的な写真の投稿に繋がっている訳だが、それ故に様々な問題が生まれているのも確かだ。筆者が大学生だった2010年代前半は、講義中に黒板やパワーポイントのスライドを、スマホを用いて撮影する学生が現れ始めた時期だが、撮影時のシャッター音が不快という点や、板書するという行為を含めて講義であると考える教授の講義では撮影が禁止されていた9。しかし、今では講義中にBeRealの通知が教室に鳴り響き、撮影を始める学生がいるらしく、教授が「講義中にBeRealを撮るな」と一喝するそうだが、それでもSNS上では授業中に限らず、試験中やアルバイト中に撮影した、といった投稿も散見される。前述した株式会社マーケティングアプリケーションズの調査によれば、授業中やアルバイト中に撮影したことがあると回答した人はBeRealが49%、Instagramが28%、TikTokが40%とBeRealは半数近くにも及ぶ。
TPOを考慮せず、「今通知が来たから、今撮らなくてはならない」という縛りがある故に、撮影のタイミングを選ばない人や、そのような状況で撮るという刺激を楽しんでいる人を生んでいるようだ。その結果、集中している隣で撮影を始めたり、通知音がうるさいなど、それらも十分迷惑ではあるのだが、場所を選ばずに撮影する事が社会問題になっている。前述した高橋暁子の調査ではBeRealで通知が来たときにどうするかについて聞いているが、「通知がきたら、必ず制限時間内に投稿する」は6.6%、「通知がきたら、なるべく時間内に投稿する」は27.8%と、約35%の学生が制限時間内に投稿しているようだ。

インカメラで撮影するのは大抵の場合、自分自身であり、(自分の映り具合を含めて)画角に写るモノに対して比較的細心の注意を払うことができるが、アウトカメラの方に写る対象においては、そこまで気がまわっていないように思われる。例えば、更衣室や脱衣所などで撮影したり、バイト中に撮影したことで機密情報が写り込んでしまうと言った事案が生まれている。また、そもそも通知が来たタイミングによっては、不特定多数がいるところで撮影する必要性が生まれるため、映り込みなどによる肖像権の侵害や、プライバシー権の侵害に当たる可能性もある。写り込んだ相手が知人であったとしても、公序良俗に反する行為を行っている証拠などが写り込んでしまえば、デジタルタトゥーや炎上の火種になりかねない。実際に高橋の調査でも、BeRealで困ったこととして、「他の人の投稿に映り込みなどがあり心配になった」が27.3%と、3割近くが映り込みに関して問題意識を持っていた。

また、自宅やその周辺が特定できてしまう可能性がることも問題だ。X(旧Twitter)では「BeReal交換」と検索すると、BeRealをフックに交友関係を築こうとする者も散見される。BeRealで繋がる友達をSNSという不特定多数が見る場で募集したり、BeRealを使ったマッチングサービスでマッチングすることで、知らない相手に自宅や学校等が伝わってしまう可能性もある10

さらに、SNSやYahoo!知恵袋11などにおいて、若者と思しきユーザーによって、BeRealを授業中や更衣室で禁止することに対する不満を綴った投稿が散見される。「なぜ撮影してはいけないのか」想像力が欠けていることも問題だが、そのような行為が自身が身を置くコミュニティでは問題になっていないというコミュニティ内のリテラシーも問題だ。その行為が非常識であったり、誰かに迷惑をかけているという事を指摘されることがなければ、それを迷惑行為と認識する機会がないため、そのような場所で撮影する事に抵抗がない層がそのコミュニティの多数である場合、逆にリテラシーがある人々が少数派となり、撮影すべきでない場所での撮影への同調や強要に繋がる可能性もある。

読者のお子様の中にもBeRealを使用している者は少なくないはずである。仲間内で流行っているものや、主要なコミュニケーションツールを使用させないという事は、人間関係構築において負の影響があるため推奨はしないものの、何かトラブルに巻き込まれないよう、そのリスクを改めてお子様と共有する機会を持つことは必要と思われる。
 
9 前提としては大学に通っている学生は、学ぶために来ているはずだが、残念ながら多くの大学生が必ずしも学ぶことを目的に大学に通っているわけではないので、講義を聞かずにとりあえず黒板の写真だけとって試験に備えたり、仲間内でそれを共有したりする学生は少なくない。
10 東洋経済オンライン「「BeReal」を利用したマッチングアプリに要注意 4歳以上対象、「出会い系サイト規制法」の抜け道」2024/10/07  https://news.yahoo.co.jp/articles/4c01c0bb2118299ad62d61bcaff1437813b2f561
11 電子掲示板上で参加者同士が知識や知恵を教え合うナレッジコミュニティ

6――仕事中ですがBeReal撮ってもいいですか?

6――仕事中ですがBeReal撮ってもいいですか?

さて、ここまで学生の話を中心に述べてきたが、我々社会人においてもBeRealが他人ごとではない予兆を見せ始めている。以下は2024年4月にXで注目を集めた投稿の内容だ。
 
新入社員、仕事中にBeRealの通知がきて「撮ってもいいですか?」と言ってきて普通にドン引きした
Z世代というと現役学生を想起するかもしれないが、正確には1996年~2012年の間に生まれた層を指す。年齢で言えば現在12歳~28歳前後の若者ということになるため、職場の20代の大半が今やZ世代なのである。BeRealが流行り始めたのが2022年頃であるため、彼らも学生時代に日常のコミュニケーションの一環としてBeRealを使用してきており、現役ユーザーも多いはずである。今後職場におけるZ世代の割合がさらに増加していく中で、ここで紹介した投稿主のように、BeRealに限らず、彼らの行動や思考に大きなギャップを受ける機会も増えていくだろう。もしかしたら、自身の部下がBeRealを撮っていいか聞いてくるかもしれないし、自社の機密情報がBeRealに映り込み拡散されてしまう可能性も現実のものとなりつつある。

そもそもアルファベットによる世代の分類は、アメリカにおいて戦後の若者が戦前の若者と比較すると何を考えているかわかないことから、未知を意味するXというアルファベットが宛がわれたことに起因する。その後もY、Zと変遷しているが、どの時代においても若者は何を考えているかわからない、というのが本音であろう。「仕事中にBeRealなんてもっての外」「社会人としての自覚がない」「これだからZ世代は」と切り捨ててしまうのは簡単であるが、人間関係の構築は、ある意味他人との価値の違いによって生まれる摩擦を解消していくことでもあるので、本稿では敢えて彼らが仕事中であってもBeRealを撮らなくてはいけない理由がある前提に、その背景を考察してみようと思う。読者の皆さんも本レポートに対して「理由などない」「ただ楽しいから撮っているだけ」と切り捨てないで筆者の私見として読み進めていただけたら幸いである。

7――BeRealにおける相互監視機能

7――BeRealにおける相互監視機能

さて、前述の投稿を改めてみてみよう。彼らは撮影前に上司と思しき投稿主に撮影の許可を求めていることがわかる。無断で撮影する事もできる訳だし、一般的にカメラを起動する必要があってもわざわざ許可を求めることはないと思えば、この新入社員は職場でBeRealを使用することは、業務とは関係ないという事は理解していることが伺える。にもかかわらず、わざわざ許可をとってでも撮影したいということになるが、それはなぜか。筆者はBeRealの相互監視の側面に着目した。

BeRealは、拡散性のない小さいコミュニティのためのコミュニケーションツールである。お互い自分が投稿しないと他人の投稿が見れないという事は、BeRealを正しく活用するためには、お互いがそのルールに従う必要があり、且つ相手がそのルールに従っているという前提に立っている。実際、筆者が行ったインタビューにおいても、BeRealに対して「義務感」や「やらされている」といった受動的な意識で使用している者も多かった。自身のリアルというコンテンツを他人に見せる事が等価的に他人との繋がりを生むことができるため、「自分も投稿している訳だから相手も投稿しているはず」、「自分のリアルをさらけ出しているわけだから、他人のリアルを見る事ができるはず」、と12いわば相互に監視しあうという仕組みに縛られていることになり、これがBeRealに対する受動性や義務感を生んでいるのである。

一方で、一般的なSNS上で表示されている情報の多くは、「自身の外」の世界のコトである。SNSを開くと自身の知らない所で面白い事や魅力的なモノが存在していることを認識することも多いだろう。それはスマホ上で(自身の世界の外の)視覚化された自分の知らない所で起きている情報の集合体と、それを眺めているという自分という構図を生んでおり、他人と繋がったり、共通意識をもたらすのがSNSではあるものの、本質的には自身の境遇の違いや自身と他人との違いが明確化してしまう「よそはよそ、ウチはウチ」を意識させるツールでもあるとも言える。
 
12 自身を他人に監視させることが自己規律に繋がり、監視される主体(自身)が能動的に自分を他人にとっての監視対象になるように、自分自身を監視(ルールを守るように)するようになるわけだ。この己を監視しているという意識がBeRealに対する能動性や義務感を生んでいる。

生活研究部   研究員

廣瀬 涼(ひろせ りょう)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴

【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
     ニッセイ基礎研究所入社

・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会

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