インバウンドの勢いがますます強まる中、本稿では政府統計を用いて2024年7-9月期の消費動向を分析した。消費額は円安による割安感や国内の物価上昇の影響で、前期に続き四半期で約2兆円に達した。2024年1-9月の合計消費額は5.8兆円となり、すでに過去最高だった2023年の5.3兆円を超えている。仮に2024年10-12月期も7-9月期と同様の伸びを示せば、2024年の年間消費額は約8兆円に達する見通しである。
また、前期に引き続き、2024年7-9月期の訪日外客数の増加(2019年同期比+16.9%)と比べて、消費額の増加(同+64.8%)ははるかに大きく、1人当たりの消費額(22万3,195円)はコロナ禍前の1.4倍に増加した。特に欧米からの訪日客では、消費額が2倍近くに増えた国も多く見られた。なお、消費額の内訳は、前期同様、モノ消費(「買い物代」)が3割、サービス消費が7割を占めた。
コロナ禍前に圧倒的な存在感を示していた訪日中国人観光客の回復基調は一段と強まり、今期の外客数は再び首位に復帰し、消費額も前期に続いて首位を維持した。訪日中国人観光客の数はコロナ禍前の同期の約4分の3にとどまるが、1人当たりの消費額が増加したことで、消費額全体ではコロナ禍前を約5%上回る結果となった。なお、中国人観光客ではモノ消費が4割を占めて、全体平均を上回っていた。
観光地でのオーバーツーリズムが問題視される中で、今後インバウンド消費をさらに拡大していくためには、いかに付加価値の高いサービス(体験)を提供できるかが重要な課題である。これまでも指摘してきたように、娯楽サービス(現地ツアーやテーマパーク、舞台・音楽鑑賞、スポーツ観戦、美術館、温泉やエステ、マッサージ、医療費など)は、現時点では消費内訳の数%にとどまっているが、今後の成長が期待される分野である。特に日本においてはナイトタイムエコノミーに関連するサービスや富裕層向けの質の高いサービスが不足しており
6、新たなサービス需要の開拓は、成熟しつつある日本人の消費市場の更なる発展にも寄与するだろう。
サービス業では特に人手不足が深刻だが、労働生産性には改善の余地がある。効率的な労働投入(宿泊業などの繁閑の差が激しい業種における地域全体での雇用シェアや物品の共同購入など)や業務の効率化(デジタル化、無人化など)に加え、付加価値の向上(デジタル化でサービスが同質化する中で文化芸術や地域文化の伝承などを根幹に据えたサービス提供など)が課題であることが指摘されている
7。
少子高齢化による労働力不足という日本の構造的な課題により、供給不足による機会損失も生じている。多方面から生産性向上を図る施策が進められることで、インバウンドのみならず、国内の個人消費の底上げも期待される。
6 国土交通省「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」(平成31年3月)や株式会社日本総合研究所「平成30年商取引・サービスの適正化に係る事業(日本版ブロードウェイ構想に関する基盤調査)報告書」など。
7 経済産業省「サービス産業×生産性研究会」報告書(2022年3月)