コラム

超過確率何分の1の豪雨が基準?-治水事業の整備基準を確率の面から見てみよう

2024年10月15日

(篠原 拓也) 保険計理

◇ 超過確率の計算には確率紙が用いられてきた

それでは、実際に過去の最大雨量のデータをもとに超過確率を計算するには、どうしたらよいだろうか。
 
従来、確率紙という特殊な方眼紙にデータをプロットするという作業を通じて行われてきた。通常の方眼紙は縦横に1ミリメートル目盛り等で一定間隔の線が引かれているものが多い。確率紙の場合は、縦または縦横とも対数目盛となっている。そして、縦方向は、上に行くほど小さい値となっている(縦軸が上下反転している)。
 
ここで、ある地点について、n年間にわたって毎日の降水量を観測したとする。そのデータをもとに毎年の最大値をとることにより、n個の日降水量の年最大値が得られる。これを確率紙にプロットすることにしよう。
 
まず、得られたデータを大きいものから順番に並べる。そして、大きい順に1~nまでの番号を付ける。その番号を、(n+1)で割り算した値を縦軸に、日降水量の年最大値を横軸にして、n個のデータをプロットしていく。((n+1)で割り算するのは、今回用いているような順序統計学(順番に並べた確率変数を用いた統計学)では、累積分布の期待値計算で分母に(n+1)があらわれることによる。)
 
プロットした各点に対して、その並び方の方向に最もよく合う近似直線を(目分量で)引く。その際、外れ値があれば無視する。
 
この直線が日降水量と超過確率の関係を示すものとなる。例えば、次のグラフからは、「年超過確率1/10 (つまり0.1)の降雨は、1日約200ミリメートル」などと読み取ることができる。

◇ 超過確率の考え方は陳腐化していない

以上述べたような確率紙を用いた超過確率の計算は、いまではあまり行われていないとみられる。
 
パソコンを用いれば、画面上で確率紙のプロットができ、近似直線を引くことができる。確率紙を用いた計算方法は、どこか前時代的で、DX(デジタルトランスフォーメーション)真っ盛りの現代からすると、古めかしい感じがするかもしれない、
 
ただし、超過確率の考え方は、決して陳腐化していない。それどころか、近年の度重なる豪雨のデータを取り入れて、超過確率とそれに対する降水量を更新する取り組みが、各自治体で進んでいる。
 
一般的には、水文学や水理学における超過確率といった考え方は、なじみが薄いものと考えられる。その一方、地球温暖化を原因として洪水のリスクが高まる中、各自治体は治水整備事業を進めている。
 
自分の住んでいる地域では、どの程度の超過確率の豪雨を基準に、河川整備や緊急雨水整備が行われているのか? ― 少し気にしてみるのもよいと思われるが、いかがだろうか。

(参考文献)
 
「名古屋市総合排水計画」(名古屋市, 最終更新日:2019年5月20日)
 
「年最大日雨量の超過確率について」野々田稔郎 (三重県林業研究所)
 
「洪水対策のはなし」(東京都建設局河川部)
 
「東京都豪雨対策基本方針 (改定)」(東京都都市整備局, 最終更新日2023年12月18日)
 
「極値事象のリスク管理 -カタストロフィ(CAT)と極値理論(EVT)など-」吉澤容一 (損害保険総合研究所, 損保総研レポート, 第92号, 2010.6)
 
「超過確率の求め方」水谷武司(国立研究開発法人 防災科学技術研究所, 自然災害情報室「災害予測編」, 公開:2009.04.03 更新:2020.03.04 )
 
「確率紙の考え方」酒井信介(東京大学)
 
「極値分布の確率論的な基礎知識 -裾の挙動から見た確率分布-」志村隆彰 (統計数理研究所, 2014年12月8日)
 
「極値統計量の漸近理論について」高橋倫也 (数学, 46巻1号, 39-50, 1994年)
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