コラム

ふるさと納税の新たな懸念-ワンストップ特例利用増加で浮上する課題

2024年10月11日

(高岡 和佳子) リスク管理

今夏、ふるさと納税総額(寄付総額)が1兆円を超えたことが話題になったが、ふるさと納税総額が拡大した要因の一つとして、ワンストップ特例制度が挙げられる。ワンストップ特例制度とは、確定申告をせずにふるさと納税による寄付金控除が受けられる制度である。利用者は、制度がスタートした2015年(平成28年度課税)の42万人から537万人に増加している。確定申告をするふるさと納税利用者も増加しているが、ワンストップ特例制度を利用する寄付者の割合は徐々に増加し、近年では、ふるさと納税制度利用者全体の過半数がワンストップ特例制度を利用している。
ワンストップ特例制度を利用できるのは、確定申告を行う必要のない人で、所得税率(復興特別所得税除き)が33%以下の人に限られている。所得が高いほど、寄付額の上限額(寄付額から自己負担額2,000円を除いた全額の税金の支払いが免除される寄付額の上限額)は高いので、寄付総額に占めるワンストップ特例制度の割合は人数ベースの割合には及ばない。しかし、令和6年度課税分では、寄付額全体に占める割合も30%を超えた。

原則、ふるさと納税の寄付者の実質的な負担額は、ワンストップ特例制度の利用と確定申告のどちらを選択しても変わらない。しかし、どちらの方法を選択するかによって、居住する自治体(都道府県及び市区町村)の負担額は変わる。ふるさと納税は寄付額から自己負担額2,000円を除いた全額分だけ、税金の支払いが免除される制度だが、確定申告を行うことで、所得税(国税)の所得控除を通じて一部の免除を受け、住民税(地方税)の税額控除を通じて残額の免除を受けるのが原則である。ワンストップ特例制度は、確定申告を行わないので所得税(国税)の免除は受けられないが、特例として、その分だけ住民税(地方税)の免除額が増える制度である(以下、住民税免除額の増額分を申告特例控除額と記す)。つまり、寄附者がワンストップ特例制度を選択すると、国が負担すべき免除額を居住する自治体が負担することになる。

寄付総額の増加とワンストップ特例利用割合の増加に伴い、申告特例控除額も年々増加し、直近では、487億円に及ぶ。高々487億円と思うかもしれないが、利用者の事情(選択)で、本来は国が負担すべき金額だけ地方税収が減少するのだから、その分は国から補填があってもよいと思う。例えば、住宅借入金等特別税額控除は、原則所得税から控除される(国が負担する)が、所得税から控除しきれなかった金額は住民税から控除される。このように、ワンストップ特例と同様に利用者の事情で地方税収が減少するが、住宅借入金等特別税額控除については減収分を地方特例交付金として国が補填する仕組みがある。総務省「令和5年度 地方特例交付金の決定について」によると、令和5年度の地方特例交付金の総額は2,045億円である。住宅借入金等特別税額控除による減収額2,045億円と比べると、ワンストップ特例制度による減収額487億円は少ないが、無視できるほど差があるようには思えない。
話は変わるが、10月に入って返礼品等を強調するふるさと納税の広告を目にしなくなったことに気が付いているだろうか。今年6月、ポイントを付与するサイトを介したふるさと納税が認められなくなることが話題になったが、同じ告示で返礼品等を強調する広告を行うサイトを介したふるさと納税も認められなくなっている。ポイント禁止ルールの適用開始は来年10月だが、返礼品等を強調した広告の禁止ルールは今年10月から適用されている。このように、ふるさと納税制度は趣旨に沿うよう度々ルールの改定が行われているのだから、同様にふるさと納税に対応した地方特例交付金も検討すべきではないだろうか。
 
 

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