(日銀)変更なし
日銀は9月19日~20日に開催したMPMにおいて、金融政策の現状維持を決定した。これまで同様、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.25%程度で推移するように促すこととした(全員一致での決定)。
一方、声明文では、個人消費の現状判断を「緩やかな増加基調にある」とし、7月の「底堅く推移している」から上方修正した。
会合後の総裁会見において、植田総裁は、「現在の実質金利が極めて低い水準にある」ことを指摘したうえで、「(日銀の想定する)経済・物価見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と従来の基本方針を改めて表明した。一方で、「米国をはじめとする海外経済の先行きは引き続き不透明であり、金融資本市場も引き続き不安定な状況にある」との認識を示し、「当面はこれらの動向を極めて高い緊張感をもって注視し、わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響をしっかりと見極めていく」と付け加えた。
総裁はさらに、「年初以降の為替円安に伴う輸入物価上昇を受けた物価上振れリスクは相応に減少しているとみている。従って、政策判断に当たって、(中略)時間的な余裕はある」とある程度の時間をかけて慎重に利上げの判断を行っていく方針を示した。
足元の日本経済については、「データは見通しに沿って推移している」とする一方で、「米国経済を中心とする世界経済の不透明感、あるいはそれを映じた金融資本市場の動きが今後の見通しに不透明感を与えている。それを総合すると、直ちに見通しの確度が高まった、従ってすぐ利上げだということにはならない」と踏み込んだ。
米国経済に関しては、「8月初め以降の米経済に関するデータは少し弱いものが続いたりしているので、リスクは少し高まっているかな」との認識を示し、「ソフトランディングの方にまとまっていくのか、もう少し調整が強まる方向にまとまっていくのか、(中略)見極めていきたい」と言及した。
先行きの利上げの終着点に関係する中立金利については、「中立金利の推計はかなり幅のあるもので、その中のどこかというもっともらしいところ、あるいはもっともらしい範囲にそれを狭めるというところにはまだ残念ながら至っていない」と従来の見解を説明。「中立金利の幅の中に入る可能性が高くなっていけばいくほどより注意深く、(中略)利上げの及ぼす影響を見極めつつやっていく」との方針を示した。
なお、市場との対話については、「7 月の会合後の市場の乱高下の一因として、やはり私どもの考え方が十分伝わっていなかったのではないかと、市場等に、という批判があることは承知している」としたうえで、「当面の政策運営に大きく影響するのは、(中略)物価見通しの確度が目に見えて高まったかどうかという点」、「こういう点に関する情報発信をもう少し丁寧に、場合によっては少し頻繁にできると良い」と述べた。
その後、10月1日に9月MPMにおける「主な意見」が公表された。
政策委員からは、経済情勢について、「米国経済やFRBの利下げペースに関する不確実性が増しており、わが国の為替や企業業績に負の影響を及ぼす可能性に注意が必要」、「(米国の)雇用を中心に底入れが確認できるまで注意深く見極める必要がある」、「(FRBによる)利下げの幅によっては、ドル安・円高、株安となるリスクがある。この点の見極めには、なお時間を要する」などと米国経済の行方とその影響に対する警戒感が数多く言及されていた。
また、金融政策運営については、「一定のペースで利上げをしないとビハインドザカーブに陥ってしまうような状況にはないので、金融資本市場が不安定な状況で利上げすることはない」、「現時点では本格的な引き締め政策への転換を連想させるような追加的な政策金利の変更は望ましくない」、「海外経済の不確実性が高まっただけに、市場変動の影響も見極めるため、当面は海外・市場動向を見守り、金融緩和の一段の調整は不確実性が低下した段階にすることが妥当である」、「今後の政策運営は、下方リスクに十分配慮し、データを慎重に認して進める必要がある」などハト派的な意見が相次いでおり、足元の情勢を踏まえ、今後の利上げ判断を慎重に行っていくとの姿勢が日銀内に広がっていることがうかがわれる(金融政策に関する筆者の予想についてはP4~5に記載)。