円相場は一時1ドル140円割れ、円高は続くか?~マーケット・カルテ10月号

2024年09月17日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

月初1ドル146円台でスタートしたドル円は、16日に一時140円を割り込み、足元でも140円台半ばで低迷している。米雇用統計やCPIの発表を受けてドル高に振れる場面もあったものの、米経済の大幅な悪化懸念を背景とするFRBによる急速な利下げ観測が円高進行の主因となった。また、この間に日銀審議委員による講演が相次ぎ、それぞれ不安定化している市場への一定の配慮を見せながらも、利上げ路線の継続を示唆したことも円高の流れをサポートした。

先行きについては、長い目で見れば、米国の段階的な利下げと日銀の緩やかな利上げを背景として円高基調となる可能性が高い。ただし、足元の市場は米経済の大幅な悪化懸念を背景に利下げを織り込みすぎている。また、近頃は投機筋による円買いも進んでいるが、ドル売り円買いには金利差分のコストが生じるため、円買いの積み上げには限界があるはずだ。むしろ、市場が落ち着くにつれて円キャリートレードによる円売りがジワリと再開する可能性もある。従って、今後は米経済への過度の悲観に修正が入ることで、遠からず、一旦円安方向への水準調整が発生すると予想している。3か月後の水準は142円台と見込んでいる。

なお、見通しに織り込みづらいテーマに日米の選挙がある。目先は国内で首相交代に繋がる自民党総裁選が行われる。日銀が進める緩やかな正常化路線は多くの候補に許容されると見込まれるが、タカ派色・ハト派色が強い候補も散見されるうえ、植田日銀は政権の意向に強く配慮するふしがあるだけに、決め打ちは出来ない。米大統領選も含め、選挙結果とその影響は非常に流動的であるため、上記のドル円見通しをベースとして、必要に応じて選挙を巡る情勢変化を織り込んでいく姿勢を採らざるを得ない。

長期金利は月初0.9%台近辺でスタートした後、米経済の大幅な悪化懸念を背景とする急速な米利下げを織り込む形でやや低下し、足元では0.8%台前半にある。

今後は、米経済への過度の悲観に修正が入る中、日銀の追加利上げ観測が次第に回復し、長期金利は上昇に向かうだろう。日銀による段階的な国債買入れ減額も金利上昇に作用するはずだ。3ヵ月後の水準は1.0%台と予想している。
 
(執筆時点:2024/9/17)

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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