女性の更年期症状と就労の継続

2024年08月29日

(村松 容子) 医療

1――はじめに

2021年にNHKや労働政策研究・研修機構等が更年期症状を経験した40~59歳の有業男女に行った「更年期と仕事に関する調査20211」によると、更年期症状が原因で、「非正規化」「降格・昇進辞退」「労働時間・業務量減」「仕事をやめた」のいずれかに当てはまる割合は、調査対象となった女性全体の15.3%にのぼった2。中でも、「仕事をやめた」は9.4%と高い。この調査をはじめ、国内で実施された、いくつかの調査をもとに、2024年2月、経済産業省は女性の更年期症状による経済損失を年間1.9兆円と見積もる試算を公表した3。内訳は、欠勤が約1,600億円、パフォーマンス低下が約5,600億円、そして離職が約10,000億円である。さらに離職等の場合の追加採用にかかる費用が約1,500億円としている。男性の更年期症状による損失4は、1.2兆円と見積もっており、その内訳として、欠勤が1,100億円、パフォーマンス低下が約4,000億円、離職が約5,800億円、追加採用にかかる費用が約1,100億円である。女性の離職にともなう損失は他と比べても大きいとされている。

近年、学校卒業後、継続して就労している女性が増えたことに加え、第二次ベビーブーマーが50代を迎え更年期症状に悩まされる女性就労者はかつてないほど多いと考えられる。キャリアを積んだ女性が増える中、更年期症状によって離職したり、自分が望むキャリアをあきらめる女性がいるとすれば、女性本人だけでなく企業にとっても、また社会全体でみても大きな損失となる。経済産業省の公表資料によれば、約7割の女性が健康や体に関する十分な支援がないと感じており、望むサポートとしては、上司や周囲の理解、休暇制度や時短勤務など仕事との両立を図るための支援、業務分担や適切な人員配置等となっている。健康経営度調査においても2023年度以降、女性の健康に関する設問の認定要件が厳格化する等、取組みの充実を推進している。

しかしその一方で、現在の中高年女性には、若いころから家庭を優先しながら働いてきた人も多い。中高年女性が更年期症状をきっかけに離職に至る理由には、自分自身の健康上の問題だけでなく、子どもの学校や受験、高齢となった親の介護等、家族の生活を維持するためや、子どもの養育費等に目途がたった等、家庭の事情も考えられ、企業における制度充実だけでは解決できない問題もあると考えられる。

そこで、本稿では、ニッセイ基礎研究所が2024年3月に実施した「女性の健康に関する調査」を使って、退職、休職、配置転換等を行った人について、その時の仕事や家庭における事情について尋ねた結果を紹介する。
 
1 NHK、(独)労働政策研究・研修機構、(一社)女性の健康とメノポーズ協会、特定非営利活動法人POSSEによる共同企画。
2 周燕飛「NHK実施「更年期と仕事に関する調査2021」結果概要-仕事、家計への影響と支援について-」(https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/collab/nhk-jilpt/docs/20211103-nhk-jilpt.pdf
3 経済産業省(2024年2月)「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf
4 経済産業省の資料では、男性の更年期症状による経済損失も試算されているが、男性の更年期症状については、「概ね40歳以降に男性ホルモン(テストステロン)の減少により、女性更年期障害と類似した症状を呈するが病態が複雑でまだ十分に解明されていない」と注記している。

2――基礎研結果

2――基礎研結果

1|調査の概要および分析対象者の概要
本調査は、ニッセイ基礎研究所が2024年3月に全国20~59歳の女性を対象にインターネットで行った調査で、3,000名から回答を得た5。このうち、一度でも働いたことがある40~59歳1,783名を対象に、更年期症状による医療機関受診等状況を尋ねた結果を図表1に示す。

「医療機関への受診により、治療を受けたことがある/治療を受けている」が7.2%、「別の病気を疑って医療機関を受診したら、更年期障害である可能性を指摘された」が0.8%、「医療機関を受診はしたことがないが、医療機関に相談をすると良いかもしれないと思う症状があった/ある」が4.4%、「医療機関を受診するほどではないが、思い当たる症状があった/ある」が22.5%で、この計34.9%(623名)が、自分自身で更年期症状を自覚していると思われた。このうち、「医療機関への受診により、治療を受けたことがある/治療を受けている」「別の病気を疑って医療機関を受診したら、更年期障害である可能性を指摘された」「医療機関を受診はしたことがないが、医療機関に相談をすると良いかもしれないと思う症状があった/ある」の12.4%(221名)は医療機関を受診しているか、受診を検討するほどの症状があると考えられた(以下、「受診レベルの症状あり」とする。)。「受診レベルの症状あり」ではない「更年期症状の自覚あり」は、「医療機関を受診するほどではないが、思い当たる症状があった/ある」という状態で、全体の22.5%(402名)を占めた(以下、「受診レベルではない症状あり」とする。)。

以下では、一度でも働いたことがある40~59歳の女性のうち、更年期症状の自覚がある623名(受診レベルの症状ありが221名、受診レベルではない症状ありが402名)を対象に分析する。
 
5 ニッセイ基礎研究所「女性の健康に関する調査」2024年

2|仕事への影響
更年期症状を自覚している人について、更年期症状・障害の仕事への影響を図表2に示す。

受診レベルの症状がある人では、仕事の継続やキャリア形成の妨げとなり得る、退職、休職、配置転換、昇進に関する影響として、9.0%が「退職した+退職を検討した」と回答していた。また5.0%が「休職した+休職を検討した」、4.5%が「配置転換を申し出た+申し出ることを検討した」、2.7%が「職場において、昇進が難しくなった(なりそう)」と回答していた。なお、「配置転換を申し出た+検討した、または昇進が難しくなった(なりそう)」のいずれかにあてはまる割合は5.9%だった。また、仕事の継続やキャリア形成を妨げるほどではないにしても仕事を継続する中でも影響はあり、「定期的な休みを取得した+定期的な休みを検討した」「仕事でのパフォーマンスが下がる」がそれぞれ11.3%だった。

受診レベルではない症状がある人では、受診レベルの症状がある人と比べて仕事への影響は大幅に低かった。しかし、「退職した+退職を検討した」は2.2%、「仕事でのパフォーマンスが下がる」は6.7%であり、受診レベルではない症状がある人のボリュームを考えれば、受診レベルではない症状であっても企業が対処していかなくてはいけない課題だろう。

なお、図表2に示した影響以外に、「進学や就職・転職の際、妨げになった/なりそう」が、受診レベルの症状がある人で13.1%、受診レベルではない症状がある人で4.1%となっており(図表略)、更年期症状を自覚している人、特に受診レベルの症状がある人では、退職や休職、配置転換以外にも仕事を継続していても、パフォーマンスが低下したり、体調を理由に思いとどまることがありそうだ。
3|退職、休職、配置転換等の理由
では、仕事の継続やキャリア形成の妨げとなり得る更年期症状をもつ女性が、退職、休職、または配置転換等の申し出のいずれを選んでいるだろうか。退職や休職をしたり、配置転換を申し出た、またはこれらを検討した、昇進が難しくなると感じた等(以下「退職、休職、配置転換等」とする。)が起きた時の理由を複数回答で尋ねた6。さらに、「退職、休職、配置転換等」が起きた時の職場や家庭等の状況を複数回答で尋ねた7。これらの結果は、いずれも「退職、休職、配置転換等」の選択に関連すると思われることから、本稿では、両設問の選択肢を合わせて、「体調」「自信・余裕喪失」「職場が合わなかった」「職場に迷惑」「家族の面倒」「勧められた」の6つのグループに分類し、図表3に、グループに属する選択肢のいずれか1つでも回答した人の割合を示した8
6つのグループの中で高かったのは「体調」と「自信・余裕喪失」で、59.1%だった。次いで、「職場が合わなかった(56.1%)」「職場に迷惑(50.0%)」「家族の面倒(31.8%)」「勧められた(13.6%)」の順だった。それぞれ、更年期症状やそれ以外の病気にともなう体調不良や、更年期症状が直接の原因かはわからないが、仕事生活において自信や余裕を喪失したこと、業務内容や同僚など、職場が合わないと感じたこと、職場において負担感が大きかったり休むことなどで迷惑がかかるといった思いのほか、職場や産業医から勧められたことなどである。また、その時の家庭の状況も退職、休職、配置転換等の選択に影響があるようだ。今回分析対象とした40~59歳は、家庭内で負担が大きい女性も多い。子どもの年齢も様々だと考えられ、子どもがある程度大きくなっていても、就学中であれば、部活や受験等、乳幼児期とは異なる養育負担がある。また、親(義親)の加齢にともなって家庭内での負担が増えている可能性も考えられる。
「退職、休職、配置転換等」のうち、「退職した+退職を検討した」「休職した+休職を検討した」「昇進が難しくなった、配置転換を申し出た+検討した」と回答した人の、それぞれにおける特徴をみる(図表4)。

「退職した+退職を検討した」人は、仕事自体から離れようとした人であるのに対し、「休職した+休職を検討した」人は仕事を継続する可能性を残した人、「昇進が難しくなった、配置転換を申し出た+検討した」人は仕事を継続しようとした人と考えられる。今回の調査では、これらのすべてを合わせても該当するのは66人と、人数が少なかったため、以後は参考として傾向をつかむ程度にとどめる。

仕事への影響別に見ていくと、「退職した+退職を検討した」人は、それ以外の人と比べて、「体調」と「勧められた」は差がなかったが、「自信・余裕喪失」「職場が合わなかった」「       職場に迷惑」「家族の面倒」が高かった。更年期による退職には、体調や職場環境のほか、家族の状況も影響する可能性が考えられた。また、「自信・余裕喪失」「職場が合わなかった」「   職場に迷惑」は更年期症状にともなう心身の不調が表れた結果かもしれない。続いて、「休職した+休職を検討した」人は、それ以外の人と比べて「勧められた」が高く、体調と仕事の継続を考えて職場や産業医等から休職する案を提示された可能性が考えられる。「勧められた」は、「昇進が難しくなった、配置転換を申し出た+検討した」や「退職した+退職を検討した」では、該当する人とそれ以外の人とでほとんど差がないことが特徴で、職場では、休職を勧めることが多いのかもしれない。最後に、「昇進が難しくなった、配置転換を申し出た+検討した」人は、それ以外の人と比べて「職場に迷惑」が高く、その時の職場における負担を減らしたり、仕事を継続できるような配置転換を申し出ることで仕事を継続しようとしていると考えられる。「職場に迷惑」以外は十分な差はないものの、「体調」「自信・余裕喪失」「家族の面倒」「勧められた」はいずれもあてはまる人でどちらかと言えば高いのに対し、「職場が合わなかった」はどちらかと言えば低い。また、更年期症状が出た時に、「勤め先の制度(特別休暇等・短時間勤務等)を利用した」と回答していたのは、「昇進が難しくなった、配置転換を申し出た+検討した」が16.7%と、「退職した+退職を検討した」の3.0%、「休職した+休職を検討した」の6.3%と比べて高い傾向があり(図表略)、仕事の継続を考えようとしている様子が伺える。

「退職した+退職を検討した」「休職した+休職を検討した」「昇進が難しくなった、配置転換を申し出た+検討した」のいずれについても、「体調」は該当する人とそうでない人との差は小さく、症状の程度による差はあるかもしれないが、「体調」に分類した3つの選択肢にあてはまるかどうかによる差はないようだ。
 
6 選択肢は、「仕事を続ける自信がなくなったから」「症状が重かったから・働ける体調ではなかったから」「職場や会社に迷惑がかかると思ったから・居づらくなったから」「更年期のために仕事を休むことができなくなったから」「治療と仕事の両立が難しかったから」「育児や介護と仕事の両立が難しかったから」「勤め先から指示・命令されたから」「同僚や上司等に言われたから」「産業医や主治医から薦められたから」「その他」とした。
7 選択肢は、「職場における業務が合わなかった」「職場における同僚や上司が合わなかった」「 日々の生活において時間に余裕がなかった」「職場における責任が大きかった」「通勤時間が長い等、通勤の負荷が大きかった」「更年期症状以外に、別の病気を抱えていた」「家族の仕事や体調管理等で、家庭内での負担が大きかった」「子どもの世話や子どもの受験等で、家庭内での負担が大きかった」「職場の温度や照明、騒音等、職場の環境が合わなかった」「親や親せき等の介護や介助で、家庭内での負担が大きかった」「その他」とした。
8 グループ分けは因子分析の結果を参考にした。
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