2021年にNHKや労働政策研究・研修機構等が更年期症状を経験した40~59歳の有業男女に行った「更年期と仕事に関する調査2021
1」によると、更年期症状が原因で、「非正規化」「降格・昇進辞退」「労働時間・業務量減」「仕事をやめた」のいずれかに当てはまる割合は、調査対象となった女性全体の15.3%にのぼった
2。中でも、「仕事をやめた」は9.4%と高い。この調査をはじめ、国内で実施された、いくつかの調査をもとに、2024年2月、経済産業省は女性の更年期症状による経済損失を年間1.9兆円と見積もる試算を公表した
3。内訳は、欠勤が約1,600億円、パフォーマンス低下が約5,600億円、そして離職が約10,000億円である。さらに離職等の場合の追加採用にかかる費用が約1,500億円としている。男性の更年期症状による損失
4は、1.2兆円と見積もっており、その内訳として、欠勤が1,100億円、パフォーマンス低下が約4,000億円、離職が約5,800億円、追加採用にかかる費用が約1,100億円である。女性の離職にともなう損失は他と比べても大きいとされている。
近年、学校卒業後、継続して就労している女性が増えたことに加え、第二次ベビーブーマーが50代を迎え更年期症状に悩まされる女性就労者はかつてないほど多いと考えられる。キャリアを積んだ女性が増える中、更年期症状によって離職したり、自分が望むキャリアをあきらめる女性がいるとすれば、女性本人だけでなく企業にとっても、また社会全体でみても大きな損失となる。経済産業省の公表資料によれば、約7割の女性が健康や体に関する十分な支援がないと感じており、望むサポートとしては、上司や周囲の理解、休暇制度や時短勤務など仕事との両立を図るための支援、業務分担や適切な人員配置等となっている。健康経営度調査においても2023年度以降、女性の健康に関する設問の認定要件が厳格化する等、取組みの充実を推進している。
しかしその一方で、現在の中高年女性には、若いころから家庭を優先しながら働いてきた人も多い。中高年女性が更年期症状をきっかけに離職に至る理由には、自分自身の健康上の問題だけでなく、子どもの学校や受験、高齢となった親の介護等、家族の生活を維持するためや、子どもの養育費等に目途がたった等、家庭の事情も考えられ、企業における制度充実だけでは解決できない問題もあると考えられる。
そこで、本稿では、ニッセイ基礎研究所が2024年3月に実施した「女性の健康に関する調査」を使って、退職、休職、配置転換等を行った人について、その時の仕事や家庭における事情について尋ねた結果を紹介する。
2――基礎研結果