このような中で長らく日本の弱点とされてきた「ナイトタイムエコノミー」(夜間経済、夜間消費)にも注目が集まっている。
現在のところ、夜間消費についての統計はあまりないのだが、2022年12月にバー・ナイトクラブでのインバウンド決済額が2019年同月の2倍になったというデータがある
1。実際に観光地では夕食後の時間帯に出歩く外国人旅行客を多く見かけるようになったのではないだろうか。
もともと欧米人は、日本人とは異なり、仕事仲間だけでなく家族や友人とナイトライフを楽しむ文化がある。基本的に残業をせずに夜はプライベートを楽しむ時間に充てることで、例えばイギリスではパブに集合したり、アメリカの都市部では帰宅後に、あらためておしゃれをして出かけたりするため(NYのブロードウェイのミュージカルやコンサート、流行りのレストランなど)、その近隣にはバーやナイトクラブなどの夜の時間を楽しむための娯楽施設が充実している。
また、ハワイなどの観光地では免税店が夜遅くまで開いており、シンガポールではナイトサファリ(観光客に向けた夜の動物園ツアー)が有名だ。日本人からすれば夜に買い物をする、夜にツアーに参加するという感覚は珍しいものだろう。
一方で他国と比べて残業の多い日本では、夜は主に仕事の延長の時間帯だ。残業後に同僚と飲みに行く、夕食を取る、残業はしないが取引先と会食をするなど、プライベートではなく、あくまで仕事の延長となっている。近年では働く女性が増え、テレワークが進展するなど労働環境は変わったが、依然として夜の飲食店などは男性ビジネスマン向けのサービスが多いのではないだろうか。
このような中で日本では訪日客が夜の時間を楽しむ娯楽が少なく、深夜帯の交通面などのインフラも不十分であることが指摘されてきた。国土交通省では夜間のコンテンツや安心安全な環境づくりについての方針を出しており
2、(1)日本固有性、(2)地域との交流、(3)親近感、(4)最先端という4つの観点を提示している。
1つ目の日本固有性は独自文化を感じられるコンテンツということだが、例えば伝統芸能や祭り、温泉などがあげられるが、昭和レトロな雰囲気のある居酒屋やスナックなども外国にはない娯楽と言えるだろう。いずれも2つ目の地域との交流や3つ目の親近感ともつながるものだ。そして、4つ目の最先端はテクノロジーを駆使したアトラクションや建築が相当するのだろうが、資料には新宿の「ロボットレストラン」が紹介されている。このほか豊洲にあるチームラボプラネッツ(光や水によるアートと一体となって楽しめる体験型ミュージアム)なども訪日客に人気であり、自立式電波塔として世界一の高さを誇る東京スカイツリーは最先端の名所の1つと言えるだろう。
一方でインバウンドではオーバーツーリズムが課題であり、特にナイトタイムエコノミーの議論においては「夜、出歩かれて騒がれたら困る」といった声もある。基本的に夜間消費を促すような場所で「夜は静かに」というのには無理があるため、ナイトタイムエコノミーの集積地とそうでない区域の住み分けをするような街づくりが必要だ。その区別を訪日客がスムーズに理解できる状況を作り、土地勘のない訪日客が不必要に出歩かなくてはならない状況を生まないようにする必要がある。海外の都市では行政主導も民間主導のケースもあるようだが、いずれにしろ関係者の連携が必要だ。
ナイトタイムエコノミーのような新たな需要の開拓は、成熟する日本人の消費の開拓にもつながるのではないか。
1 日経MJ「インバウンド、ディープな夜熱く スナックや西成探索」(2023/8/19)における日本総合研究所と三井住友カードの調査によるデータ。
2 国土交通省「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」(2019/3)