■概要
これまでに、気象データをもとに、日本全国の気候指数を作成した。そして、回帰分析を通じて、気候指数と人の死亡率の関係の定量的な把握に努めた。そこで得られた関係式は、死亡数の実績を概ね再現するものであった。ただし、そこには再考すべき点がいくつか残されていた。
今回、2022年のデータを用いて関係式を更新するとともに、再考すべき諸点の検討を行った。その結果、(1) 7つの気候指数すべてを関係式に採用、(2) コロナ禍と大震災の影響を除いた直近データを使用(学習データとテストデータの使い分けを含む)、(3) 暑熱期とそれ以外の時期を分けて関係式を作成、等の見直しを行った。
これらの見直しを通じて、近年の死亡数実績の再現など、関係式の説明力向上が図られた。
今後、将来の気候変動経路に応じた死亡率のシナリオ策定に取り組む上で、この関係式を有効に活用することが期待される。
■目次
はじめに
1――気候指数と死亡率に関する振り返り
1|気候指数には慢性リスク要因の定量化が求められる
2|気候指数の活用-気候変動が人の生命や健康に与える影響を数量で把握
3|前回のレポートで試作した関係式には再考すべき点がある
2――関係式の更新
1|7つの気候指数すべてを回帰計算に使用する
2|大震災やコロナ禍の年のデータは回帰計算に使用しない
3|学習データを10年分、テストデータを5年分としたケースの説明力が高かった
4|暑熱期とそれ以外の時期の回帰式を分けることで説明力が高くなった
3――関係式のまとめ
1|関係式は、504本の回帰式とする
2|死亡率は、性別、年齢群団、死因、地域区分、月別に設定
3|気候指数は、全国を11の地域区分に分けて設定する
4|回帰式にはロジット変換や対数変換を組み入れる
5|ダミー変数は、地域区分と月について組み込む
6|高温と低温の指数については、2乗の項も用いる
7|死亡率の改善トレンドを、時間項として織り込む
8|回帰式は暑熱期とそれ以外の時期に応じて使い分ける
4――実績と回帰計算結果の比較
1|死亡数 : 回帰計算結果は、死亡数実績を概ね再現できている
2|死亡率 : 回帰計算結果は、死亡率実績も概ね再現できている
3|気候指数が死亡率に与える影響割合は2%程度とみられる
5――回帰式を用いた試算
1|高温指数が1高かった場合、5年間の死亡数は、実績に比べて-4.4万人減少
2|高温指数が2高かった場合、死亡数の増加は+1.5万人に拡大
3|湿度指数が1高かった場合、死亡数は+3.7万人増加
4|高温と湿度の指数が1高かった場合、死亡数は+1.7万人増加
5|7つの気候指数がいずれも1高かった場合、死亡数は+11.8万人増加
6――おわりに (私見)
※ 本稿は2024年1月18日発行「基礎研レポート」を加筆・修正したものである。