まず、気候指数と死亡率について、前回のレポートの内容を少し振り返っておこう。
1|気候指数には慢性リスク要因の定量化が求められる
近年、社会経済のさまざまな場面で気候変動問題の注目度が高まっている。台風や豪雨などの自然災害の頻発化・激甚化をはじめ、干ばつや海面水位上昇などに伴う食糧供給や生活環境の悪化が懸念されている。その対策として、カーボンリサイクル、ネットゼロ、再生可能エネルギーの導入促進といった温室効果ガス排出削減の取り組みや、それを金融面から支える、グリーンボンド(環境債)・サステナビリティボンドの発行等の動きが、各国で進められている。
そこで問題となるのが、そもそも気候の極端さは、どの程度高まっているのか、という点だ。豪雨や大規模山林火災のように、短時間のうちに急激に環境が損なわれる「急性リスク」だけではなく、海面水位上昇による沿岸居住地域の喪失のように、長期間に渡って徐々に環境を破壊していく「慢性リスク」もある。気候指数には、こうしたリスクの要因を定量的に示していくことが求められる。
このような慢性リスクを定量化すべく、日本全国を12の地域に分けて気候区分を設定し、気候区分ごとに、高温、低温、降水、乾燥、風、湿度、海面水位の7つの気候指数を作成している。
2|気候指数の活用-気候変動が人の生命や健康に与える影響を数量で把握
気候指数の用途は幅広い。例えば、中長期的な地球温暖化の進展や、気候変動に伴う生物多様性への影響の状況把握の際に、気候指数を活用することが考えられる。
気候指数を通じて、気候変動が人の生命や健康に与える影響を定量的に把握することも考えられる。気候指数が上昇した時に、死亡率がどれだけ高くなるのか、健康はどれだけ損なわれるかといった点の解明である。
そこで、前回のレポートでは、気候変動と人の死亡率の関係を、回帰分析の統計手法を用いて定量的に把握することを試みた。
関係式は、まず死亡数と人口のデータをもとに死亡率(目的変数)を求め、気候指数(説明変数)を用いて、それを回帰計算する手法で導出した。具体的には、性別、年齢群団、死因別に回帰式を立式して、各説明変数の係数を算出した。その際、ロジットを用いた分析、気温関連の気候指数(高温、低温)の2乗項の設定、時間項の導入、ダミー変数を通じた月や地域区分ごとの差の反映など、いくつかの技術的な工夫を行った。さらに、気候指数の採否を検討し、高温、乾燥、風、湿度の4つの指数を説明変数として採用することとした。
このようにして得られた回帰計算結果は、死亡数実績を概ね再現していた。
3|前回のレポートで試作した関係式には再考すべき点がある
ただし、そもそも気候変動と人の生命や健康の関係には、さまざまな作用機序が考えられる。例えば、暑熱期とそれ以外の時期とでは、高温が人の身体に与える影響は異なるかもしれない。また、高温だけではなく、低温が循環器系疾患等に与える影響も考慮すべきかもしれない。
そこで、今回は、2022年のデータを用いて関係式を更新するとともに、こうした点について検討を行い、それを気候指数と死亡率の関係式に反映させることとした。第2章では関係式の再考、第3章では、それを含めた関係式のまとめについて見ていくこととする。
2――関係式の更新