3つのドーナツで読み解くコロナ禍の人口移動

2024年07月10日

(佐久間 誠) 不動産市場・不動産市況

3――中ドーナツ:コロナ禍における都心回帰の変化

次に、コロナ禍における東京圏における東京23区と周辺部(東京都下と3県)間の人口移動の変化について、前章と同様、(1)年次データ、(2)月次データ、(3)転出元データ、(4)年齢別データの4つの切り口から確認する。
1年次データでみる東京23区と周辺部間の人口移動
東京圏内の人口移動を見ると、コロナ禍前から都心回帰のトレンドが変わり始めていたことが確認できる(図6)。周辺部から東京23区への転入超過数は、2011年以降、8年連続でプラスとなったが、2019年は▲0.4万人とマイナスに転じ、リーマンショック後である2009年の▲0.5万人や2010年の▲0.3万人に並ぶ水準に落ち込んだ。コロナ禍は都心回帰から郊外化への転換を決定づけ、転入超過数は、2020年▲2.9万人、2021年▲5.1万人、2022年▲3.0万人となった。2022年はマイナス幅が縮小したものの、周辺部への人口流出が継続した。
2月次データでみる東京23区と周辺部間の人口移動
東京圏内での郊外化は、2019年4月に始まった(図7)。周辺部から東京23区への転入超過数は、2019年3月の+0.3万人を最後に、その後はマイナスで推移している。2020年3月は+0.2万人となったが、緊急事態宣言が発令された4月以降、再びマイナスに転じ、2023年2月まで全ての月がマイナスとなった。2023年3月は+0.1万人とプラスに転じたが、過去と比べて低い水準にとどまる。そのため、東京23区と周辺部間の人口移動について、郊外化が継続するのか、それとも都心回帰が復活するのか、その見極めには時間を要することになりそうだ。
3転出元別でみる東京23区と周辺部間の人口移動
コロナ禍では、周辺部の全てのエリアから東京23区への転入超過数がマイナスとなった(図8)。転出元別に転入超過数を確認すると、2019年は神奈川県(+0.2万人)、千葉県(+0.1万人)、東京都下(▲0.1万人)、埼玉県(▲0.6万人)となり、エリア毎に異なる様相であったが、2020年以降は全てのエリアがマイナスに落ち込んだ。2022年は各エリアともマイナス幅が縮小したものの、都心回帰のトレンドに戻ることはなく、郊外化の動きが続いた。
4転出元別・年齢別でみる東京23区と周辺部間の人口移動
コロナ禍前の都心回帰は20代中心の動きであった(図9)。転出元別・年齢別に周辺部から東京23区への転入超過数を確認すると、コロナ禍前は概ね20代のみがプラスであったのに対して、それ以外の年代はマイナスで、なかでも10歳未満の転出が目立つ。これは、就職後の数年間を東京23区で暮らし、結婚して家族が増えると、周辺部へ転居するケースが多いことが想定される。先述したように、2019年に周辺部から東京23区への転入超過数がマイナスに転じたことを考慮すると、東京都心部の住宅価格の高騰により、コロナ禍前から子育て世代が郊外に転居する傾向か強まっていた可能性はある。

コロナ禍においては、20代の都心回帰が続く一方、子育て世代の郊外化が加速した。20代の転入超過数はプラス幅が縮小したもののプラスを維持し、2022年は2019年の水準を回復するなど、コロナ禍の影響はほぼ一巡したようだ。これに対して、2020年以降30~40代と10歳未満の転入超過数はマイナス幅が拡大し、2022年も回復が遅れていることから、在宅勤務の普及が子育て世代の郊外化を後押ししている可能性が考えられる。

金融研究部   主任研究員

佐久間 誠(さくま まこと)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴

【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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