適用金利が上昇していく環境になれば、それだけ変動金利型住宅ローンを借り入れている世帯では消費行動の抑制が想定されるだろう。直近の各種データから、住宅ローン利用者が支払う元利返済額の総和は筆者の概算してみると、年間13兆3,300億円程度となった。参考までに、計算条件は以下のとおりである。
【計算前提】
・民間金融機関による住宅ローンの直近の新規貸出額:約19兆円(年間)(2023年3月末)
1
→変動金利型住宅ローンの新規貸出をその約75%の14兆2,500億円と想定
・民間金融機関による住宅ローン残高の総計:約194兆円
→変動金利型住宅ローン貸出残高をその約70%の136兆円と想定
2
・完済債権の平均経過期間は約16年(2020年)
3
→最長借入期間が徐々に長期化していることから完済まで20年と想定
・変動金利型住宅ローンの適用金利の最低水準は0.3~0.4%(2024年6月時点)
→現在借り入れられている変動金利型住宅ローンの適用金利の平均を0.4%とする
・全ての住宅ローンは元利均等返済しているものと仮定する
これらの計算前提から、適用金利上昇によって住宅ローンの負担増から個人消費にどの程度の影響があるのか概算してみたところ、変動金利型住宅ローンの適用金利が1%上昇すると、元利返済額の総和は年間14兆3,100億円程度にまで増えるという結果になった。
つまり、政策金利の1%上昇で約1兆円程度の返済額の増加が生じることになる。これは、民間最終消費支出が300兆円程度であることを考慮に入れると、1%程度の金利上昇が生じたとしても、変動金利型のローン残高の割合が増えることによる家計支出への影響は、マクロで見ると、家計の消費支出額の0.3%程度ということになる。実際には5年ルール
4や125%ルール
5のある契約も多く存在しており、この試算結果よりも緩やかな上昇幅に留まるものと考えられる。固定金利型よりも適用金利が相対的に低い変動金利型には早期に元本返済が進められるという特徴があるが(図表4)、変動金利型で借り入れている住宅ローン利用者の元本返済が相応に進んでいるものとみられ、金利上昇による家計の消費への影響は総じてみれば限定的な状況にあると結論付けることができる。しかも、平均的に見れば、持家世帯であっても負債額よりも貯蓄額の方が大きい状況にあり、賃金上昇や貯蓄からの収入増によってある程度は対処できるものと考えられる(図表5)。
ただし、ミクロで見ると、住宅ローンの残存年限が長い債務者に金利上昇の影響が集中することが懸念される。特に、持家世帯の貯蓄や負債を世代別に見ると、20代、30代や40代では貯蓄よりも負債の方が大きく、金利上昇すると負担の方が大きくなる。これらの世代は老後に向けた長期的な資産形成も同時に行っていく必要があるが、金利上昇下では貯蓄の積み上げも難しくなるだろう。このような将来不安に波及する問題への対応策として、引き続き企業に対して賃金上昇を促していくのに加えて、住宅ローン減税の拡充や利子補給などの政策を実施していく必要性もあるかもしれない。