米国経済の見通し-景気は緩やかに減速、12月利下げ開始を予想

2024年06月10日

(窪谷 浩) 米国経済

1.経済概況・見通し

(経済概況)1-3月期の成長率は大幅低下も内需は堅調を維持
米国の24年1-3月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+1.3%(前期:+3.4%)と前期から大幅に低下した(図表1、図表7)。

需要項目別では、住宅投資が前期比年率+15.4%(前期:+2.8%)と前期から大幅に伸びが加速した一方、設備投資が+3.3%(前期:+3.7%)、政府支出が+1.3%(前期:+4.6%)、個人消費が+2.0%(前期:+3.3%)と前期から伸びが鈍化した。

さらに、在庫投資の成長率寄与度が▲0.5%ポイント(前期:▲0.5%ポイント)と前期並みのマイナス寄与となったほか、輸入の堅調な伸びを背景に外需の成長率寄与度が▲0.9%ポイント(前期:+0.3%ポイント)と大幅に成長率を押し下げた。当期の成長率の低下は主に外需のマイナス寄与が大きい。

ただし、内需を示す国内最終需要は前期比年率+2.5%(前期:+3.5%)と前期から低下したものの、依然として堅調な伸びを維持しており、表面的な成長率が示すよりも内需主導で経済は堅調を維持していると言えよう。

一方、非農業部門雇用者数(前月比)は24年1-3月期の月間平均増加数ペースの+29.6万人増から4-5月の月間平均増加ペースが+21.9万人増と依然堅調は維持しているものの、増加ペースに鈍化がみられる(図表2)。

また、実質個人消費(前月比)は4月が▲0.1%と24年1月以来のマイナスに転じた(図表3)。サービス消費の伸びが鈍化したほか、娯楽財・スポーツカー、ガソリン・エネルギー消費が落ち込んだことから財消費が2ヵ月ぶりにマイナスに転じた。さらに、個人消費の原資となる実質可処分所得(前月比)は24年2月以降ゼロ%近辺で推移しており、雇用増加ペースの鈍化に伴う実質可処分所得の伸び鈍化が個人消費の減速に影響した可能性がある。
 
一方、消費者物価(CPI)の総合指数は24年1月に前年同月比+3.1%に低下したものの、その後2ヵ月連続で上昇するなどインフレの上振れがみられていたが、4月は+3.4%と3ヵ月ぶりに低下した(図表4)。また、物価の基調を示すエネルギーと食料品を除いたコア指数は4月が+3.6%とこちらは23年4月以降低下基調が持続している。もっとも、コア指数はFRBが物価目標としている2%を大幅に上回っているほか、前年同月比では低下基調が続いているものの、前月比年率が+3.6%と23年6月の+2.4%を大幅に上回っている(図表5)。また、3ヵ月前比年率でも+4.3%と23年10月の+3.0%を底に上昇基調が持続しており、物価上昇圧力が依然燻っている状況となっている。このため、現時点でインフレがFRBの物価目標を達成する時期は不透明である。
そのような中、金融市場が織り込むFOMC会合毎の利下げ確率は、24年年初時点では早ければ3月会合からの利下げを織り込んでいたほか、6月会合や7月会合では8割から9割程度となっていた(図表6)。しかし、年初からのインフレ上振れもあって大幅に低下しており、足元では6月会合が1%、7月会合が16%と早期の利下げ観測は後退した。

これに対して9月会合が51%、11月が32%、12月が62%となっており、9月以降の利下げ開始が織り込まれている。

今後インフレの緩やかな低下基調が持続するのか、インフレが高止まるのか、今後数ヵ月のインフレ指標はFRBの利下げ開始時期を判断する上で注目される。
(経済見通し)成長率は24年が+2.3%、25年が+1.6%を予想。
当研究所は経済見通しの策定にあたっての前提として、ウクライナや中東の地政学的リスクの悪化に伴う大幅な原油・商品価格の大幅な上昇は回避されるほか、商業用不動産市場の悪化に伴う銀行のシステミックリスクは限定的とした。さらに、今年11月に予定されている大統領選挙では後述するようにトランプ氏が幾分優位となっており、同氏が再選されればバイデン政権下で実施されている経済政策が大幅に軌道修正される可能性があり、米国経済見通しに与える影響が大きい。しかしながら、選挙まで5ヵ月あり現時点でトランプ氏の再選が確実と言える状況にないほか、現状では同氏が2期目に実施する経済政策などについて不透明な部分が大きいことから、今回の経済見通しでは経済政策の大幅な修正は見込まないことを前提とした。

それらの前提の下、米国経済はこれまでの累積的な金融引締めの影響から、今後は失業率の上昇を伴う労働市場の減速を受けて個人消費を中心に24年後半にかけて景気減速が見込まれる。その後はインフレが緩やかに低下する中、FRBが金融緩和に転じることもあって25年に景気は緩やかに回復しよう。

実質GDP成長率は四半期ベースで24年7-9月期が前期比年率+1.5%、10-12月期が+1.4%に低下した後、25年以降は+1.7%へ回復しよう(図表7)。当該予測期間においてマイナス成長は予想せず、景気後退は見込んでいない。

通年の成長率(前年比)は24年が+2.3%と23年見込みの+2.5%から小幅低下するほか、25年は+1.6%に低下しよう。24年後半の景気減速にもかかわらず23年からの成長率の低下が小幅に留まる要因は、23年10-12月期の成長率が堅調であったことによるプラスのゲタの影響が大きい。
物価は、コアインフレ率(前年同月比)で24年末に+3%(24年通年:+3.3%)とFRBの物価目標を大幅に上回る水準に留まった後、25年末の+2%台前半(25年通年:+2.4%)まで緩やかな低下を予想する。また、当研究所は原油価格が足元の70ドル台半ばから25年末にかけて概ね同水準で横這い推移すると予想しており、総合指数も概ねコア指数同様に緩やかな低下基調が持続しよう。当研究所はCPIの総合指数(前年比)が23年の+4.1%から、24年に+3.1%、25年に+2.4%に低下すると予想する。

金融政策は、インフレ率の低下が緩やかに留まる中、FRBがインフレ動向を慎重に見極めるため、利下げ開始は24年12月を予想する。ただし、インフレが今後数ヵ月単位で物価上昇圧力の緩和が続くことや、労働市場の減速が顕著となる場合には9月に前倒しされる可能性はあろう。その後は、25年末にかけて3回の追加利下げを実施しよう。バランスシート政策は米国債とMBSの合計で毎月600億ドルの減少ペースで当面は削減を継続した後、25年中にも量的引締め政策を終了すると予想する。

長期金利は24年4-6月期平均の4.5%から、インフレ率が低下する中、24年10-12月期が4.2%に低下するほか、24年12月以降金融緩和が継続することから、25年10-12月期の同3.6%まで緩やかに低下しよう。

上記見通しに対するリスクは、インフレ高進による政策金利の上振れに加え、24年の大統領・議会選挙の結果を受けた政治の機能不全やトランプ氏の再選を受けた政策の予見可能性の低下が挙げられる。

インフレに関しては今後、ウクライナ侵攻や中東情勢の緊迫化などを背景にエネルギー、食料品価格などが再び急騰することや、労働需給の逼迫が長期化し賃金が高止まりすることなどによってインフレ高進が長期化する可能性がある。その場合には、政策金利の引上げ再開や金融引締め期間が長期化し、これまでの累積的な金融引締めの影響に加えて、さらなる金融引締めの効果から、需要が大幅に抑制されることで将来の景気後退リスクが高まろう。

一方、11月の大統領選挙では事実上20年に次いで共和党のトランプ前大統領と民主党のバイデン大統領が再戦することとなった。
政治ニュースサイトのリアルクリアポリティクスによる全米レベルの支持率は回答時期によってトランプ氏とバイデン氏の支持率が逆転するものの、5月10日から6月2日の平均ではトランプ氏の46.5%に対してバイデン氏が45.4%とトランプ氏の支持率がバイデン氏を1.1%ポイント上回っている(図表8)。
また、選挙のカギを握る7つの激戦州でもトランプ氏がバイデン氏を支持率でリードしており、仮に今日大統領選挙が実施された場合にはトランプ氏が再選される可能性が高い(図表9)。トランプ氏は5月30日に不倫口止め料の支払いを巡る業務記録改ざんの罪で有罪評決を受けたが、現時点で支持率に与える影響は限定的となっている。同氏は他にも3件の刑事訴追を抱えているが、選挙前に判決が下される可能性は低くなっており、大統領選挙への影響は限定的となる可能性がある。仮にトランプ氏が再選される場合には、トランプ氏の思い付きで政策が提示され、政策の予見可能性は大幅に低下することから、米国経済に悪影響を及ぼそう。

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩(くぼたに ひろし)

研究領域:経済

研究・専門分野
米国経済

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1999年 NLI International Inc.(米国)
 2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
 2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
 2014年10月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)