以上、各社のプレスリリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループの2023年末におけるソルベンシー比率の水準や感応度及びそれらの推移、さらには関係するその他の事項、加えて、2023年における各社の資本管理等に関するトピックについて報告してきた。
決算公表時点でのソルベンシーに関する情報提供は、必ずしも十分なものとはいえない面もある。
「1.はじめに」で述べたように、2023年1月1日から、新たな会計基準であるIFRS第17号(保険契約)の適用が開始されたことに伴い、各社において、各種の資料や数値の再編・見直しが行われている。例えば、これまでAXA、Allianz、Generali等は、「Own Funds Report」等の名称のレポートを作成してきていたが、IFRS第17号の適用開始とともに、これらのレポートの公表は廃止されているようである。これらのレポートで公表されていた内容については、一部は他の資料等でカバーされてはいるが、さらに詳しい内容等については、今後公表されてくるSFCRで報告されていくことになる。
なお、これまでのレポート
9で述べてきたように、IFRS第17号の適用自体は実質的にソルベンシーに影響を与えていない。
EUにおいて、2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして8年が経過したが、この間、各社は、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、またここ数年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大やそれに伴う市場への大きな影響、さらにはその後の急激な金利上昇等、グローバルベースで変化の激しい不確実性の高い時代を迎える中で、各社各様の考え方に基づいて、リスク管理や資本管理等で各種の対応を行い、態勢等の充実を図ってきている。
資本管理の面では、今回のレポートで報告したように、2023年に入ってからも、将来の劣後債務等の償還時期等を見据えた上で、必要に応じて、償還時にその一部等に関して、新たな劣後債務の発行等を行ったりしてきている。また、積極的に地域別の事業展開や事業領域そのものの見直しを行うことで、新たな会社の買収や子会社の売却等を行ってきている。この結果として、各社の戦略の差異等を反映する形で、今回報告している保険グループ間でも、子会社等の売買取引が行われることになっている。
こうした各社の資本管理やリスク管理の考え方等については、適宜あるいは四半期毎の報告書やプレゼンテーション資料、SFCR等において、一般の投資家向け等にも開示や説明がなされてきている。ただし、各社によって、その開示方法や説明方式等は異なっており、必ずしも統一されているわけではない。
ソルベンシーII制度の下での各種の開示や報告の問題については、これまで行われてきたソルベンシーIIのレビューにおいても、いくつかの見直し提案等が行われてきたところである。
これらの(開示や報告の見直しを含む)EUにおけるソルベンシーIIのレビューの内容については、欧州委員会、欧州理事会、欧州議会の三者によるトリローグ(Trilogue)を経て、その概要は固まってきている。これらの概要については、これまでのレポートでも報告してきているが、例えば直近では、保険・年金フォーカス「
EUにおけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向2023-EU理事会と欧州議会がソルベンシーIIのレビューとIRRDについて暫定合意」(2023.12.27)で報告している。また、英国におけるソルベンシーIIを巡る動向については、基礎研レポート「
英国におけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向(その7)-2023年に入ってからの動き(財務省とPRAが具体的な提案を公開)-」(2023.12.6)で報告しており、実際にこの見直し提案等に基づいて、2023年末からはリスクマージンの改定が実施されている。さらにソルベンシー規制に関しては、IAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)の開発の検討が行われており、この実際の監督基準としての適用は2025年が予定されている。従って、この動きを受けての、EUや英国における監督当局や保険会社の対応も注目されるところとなってくる。
今後はこれらの見直しの内容や方向性等も踏まえて、今後の決算時の開示資料や説明資料において、さらなる情報提供の工夫や充実が図られていくことが期待されることになる。
IAISによるICSの導入等やそれらの動きを受けての日本における2025年度から予定されている経済価値ベースのソルベンシー規制の導入の動きがある中で、過去の数年以上にわたって、実際に監督基準として機能してきた経済価値ベースのソルベンシー制度の代表的なものとして位置付けられる(EUや英国における)ソルベンシーIIやSSTを巡る動向とそれへの欧州の大手保険グループの各種対応については、日本の保険会社にとっても大変参考になるものがあることから、今後とも継続的にウォッチしていくこととしたい。