ベネフィット・ワンの二段階買収-第一生命HDによる完全子会社化

2024年04月01日

(松澤 登) 保険会社経営

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■要旨

2024年2月8日、第一生命ホールディングス(以下、第一生命HD)はベネフィット・ワン社(以下、ベネ社)を公開買付けの後、一般株主をスクイーズアウト(締め出し)し、完全子会社化すると公表した。
 
ベネ社はパソナを親会社とする上場会社であったが、エムスリー株式会社がベネ社のパソナ所有株式を買収し、子会社化することが公表された。これを受けて、第一生命HDは対抗して買収計画を公表した。それによると(1)第一生命HDはパソナ以外の一般株主に対して公開買付けを行う。(2)公開買付けに応募しなかった株主をスクイーズアウトするために、パソナと第一生命HD以外の一般株主が端株主となるように株式併合を行う。(3)パソナの所有株式のすべてについてベネ社が自己株式取得を行い、第一生命HDが完全親会社となる、というスキームである。
 
このスキームでは、ベネ社によるパソナ所有株式の自己株式取得による対価がパソナにおいて益金不算入のメリットを受けることができ、このメリット分を一般株主に対する公開買付けの買付け価格に反映することで、一般株主からの購入価格を高くすることができる。
 
ベネ社は社外取締役からなる独立委員会を設置し、かつ法律アドバイザーと第三者評価機関を選任して、第一生命HDと交渉した。ベネ社は結果として、一般株主に対して、第一生命HDの公開買付けの応募するよう勧奨する意見を出すに至った。
 
価格決定過程に関しては、「公正なM&Aの在り方に関する指針」に概ね沿っており、公正な手続によって価格決定がなされたと考えられる。

■目次

1――はじめに
2――エムスリーの公開買付け
  1|エムスリーの公開買付けの意図
  2|エムスリーの公開買付けの手順
3――第一生命HDによる公開買付け
  1|第一生命HDの提案を受けた折衝
  2|第一生命HDの公開買付けスキームの概要
4――第一生命HDによる完全子会社化の流れ
  1|第一生命HDの公開買付け
  2|ベネ社の株式併合
  3|パソナ所有株式の自己株式取得
5――検討
  1|問題の所在
  2|公正なM&Aの在り方に関する指針
  3|指針に照らした第一生命HDの完全子会社化
6――おわりに

保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登(まつざわ のぼる)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴

【職歴】
 1985年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
 2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
 2018年4月 取締役保険研究部研究理事
 2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
 2024年4月より現職

【加入団体等】
 東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
 東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
 大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
 金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
 日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

【著書】
 『はじめて学ぶ少額短期保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2024年02月

 『Q&Aで読み解く保険業法』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2022年07月

 『はじめて学ぶ生命保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2021年05月

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