令和6年能登半島地震では、マイナンバーカードの成果と課題が同時に明らかになった。全体で33の災害救助法適用自治体のうち、22の自治体でマイナポータルを用いた罹災証明書
9のオンライン申請を実施することができた。その反面、携行率の低さが避難所運営の効率化に寄与することを妨げた。
災害時の行政業務のうち、避難所運営は最も負荷が大きいと言われており
10、手続きなどをデジタル化する必要性は高い。デジタル庁の実証実験によれば、マイナンバーカードを活用した避難所の入所手続きは、従来の手書き方式と比べて約10分の1の時間で対応が可能である
11。
また、マイナンバーカードの活用により、被災者の移動や避難所に関するデータを収集できる。支援物資の効率的な供給や災害関連死の防止には、日々変動する被災者の居場所を正確に把握するといった、データの収集が必要だ。
避難所の出入り時にマイナンバーカードをICリーダーで読み取ることで、避難所にいる被災者の人数や年齢を把握することができる。また、避難所外で生活する被災者が日中どの避難所を利用しているかを把握するなど、より広く被災者の状況やニーズを掴むことが可能だ。
しかし、令和6年能登半島地震では、ICリーダー不足とマイナンバーカードの携行率の低さから、デジタル庁と防災DX官民共創協議会
12は、データの収集におけるマイナンバーカードの使用を見送り、代わりにJR東日本の協力を得て、応急的な手段としてSuica
13の使用を決定した。Suicaの迅速な提供は、データの収集に大きく貢献した
14。ただし、マイナンバーカードと異なり、Suicaの利用開始時には、基本4情報
15を手作業で登録する必要がある。将来的な避難所運営の効率化には、携行率を向上させ、ほとんどの被災者がマイナンバーカードを所持する状態を作る必要がある。
9 地震や風水害などの災害によって住んでいる家屋が被災した場合、被害の程度を区市町村長が証明するもの。給付金や融資、災害支援金の受給、税金、国民健康保険などの支払い猶予や減免、公的利用サービスの減免、保険金の支払い請求、応急仮設住宅への入居真正に必要となる。 東京都総務局総合防災部防災管理課. 東京防災 . 2019.p253-254
10 デジタル庁. デジタル技術を活用した被災者支援業務の業務改善に関する調査研究 実証検証報告書 図表1.1-1. 2023 . p4
11 デジタル庁. 広域災害を対象とした被災者支援業務のデジタル業務改善に関する調査研究. 2023-12-15.p7(参照2024-03-22)
12 防災分野におけるデータ連携を促進し、デジタル防災を強力に推進するために設置された、官民連携による協議会
13 JR東日本が提供する交通系ICカード。なお、SuicaとマイナンバーカードはICリーダーの読み込み規格が異なる。
14 なお、元々保有していたSuicaやモバイルSuicaは、今回のデータ収集には使用されなかった。
15 氏名・住所・生年月日・性別のこと。