I'm going to Disney World!-NFL「スーパーボウル」におけるディズニーのプロモーション

2024年03月15日

(廣瀨 涼) 消費者行動

3――"I'm going to Disney World!"

一方、ディズニーと言えば、スーパーボウルにおける"I'm going to Disney World!" (or to Disneyland) がスポーツ界の象徴的なフレーズとして知られている。スーパーボウルのMVPがチームと共にフィールドで祝福されていると、どこからか「チャンピオンシップを勝ち取りましたが次は何をするつもりですか?」尋ねられ、それに対してそのMVP選手が"I'm going to Disney World!"と答える事がスーパーボウルのお決まりになっているのだ。この伝統の起源は1987年まで遡ることができる6。1987年1月、当時のウォルト・ディズニー・カンパニーのCEOであったマイケル・アイズナーと彼の妻であるジェーン・ブレッケンリッジは、スター・ウォーズをテーマにした新しいアトラクション「スターツアーズ」のプロモーションとして映画監督のジョージ・ルーカスや他の著名人らをディズニーランドでの夕食会に招待した。出席者の中には、1986年に初めて無着陸・無給油での世界一周飛行を成し遂げた航空機(ルータン ボイジャー)の共同パイロットを務めた飛行士のディック・ルータンとジーナ・イエーガーも含まれていた。

ブレッケンリッジは、数週間前に考えられる最も冒険的なことを成し遂げたパイロットに「次に何をするつもりか」と尋ねると、ルータンは「"Well, we're going to Disneyland."(私たちはディズニーランドに行くつもりです。)」と答えたという。ブレッケンリッジはアイズナーCEOにそのセリフが広告キャンペーンになると提案し、数週間もしないうちに、ディズニー社は今や世界的に有名になった「"What's next?"(次は何?)」キャンペーンに取り掛かり、スーパーボウルMVPがチームの勝利の直後にその象徴的なフレーズを言うよう手配したのだ。

その夕食会から2週間後、ニューヨーク・ジャイアンツのクォーターバックであるフィル・シムズは、スーパーボウルXXI(1987年)でデンバー・ブロンコスに39-20で勝利し、MVPを受賞した。彼がフィールドを後にすると、カメラクルーが彼に近づき「"What's next?"(次は何?)」と尋ねると、彼は「"I'm going to go to Disney World!"(ディズニーワールドに行くつもりだ!)」と叫んだ。これを機に"I'm going to Disney World!"というセリフはスーパーボウルの伝統の1つとなり、今ではNBAやMLBなど他のスポーツのチャンピオン達にも勝利後にディズニーランドに行く意思を示す者も現れるようになった。

実際にスーパーボウルのMVPはディズニーランド(もしくはディズニーワールド)に招待され祝賀パレードに参加するまでがセットとなっている。第58回大会においては勝利した翌2024年2月12日にカンザスシティ・チーフス、クォーターバックのパトリック・マホームズが、カリフォルニア ディズニーランド・リゾートにて祝賀パレードに登場している。

ディズニーというとアニメーションやテーマパークを想起しがちだが、スポーツとの繋がりも強い。1992年にはナショナルホッケーリーグ(NHL)所属のプロアイスホッケーチーム「マイティダックス・オブ・アナハイム(アナハイム・マイティダックス)」を設立したり、昨シーズンまで大谷翔平が所属していたメジャーリーグベースボール(MLB)の球団ロサンゼルス・エンゼルスにおいて1997年から2005年までの約8年間にわたって経営に携わっていたこともある。また1996年にディズニーがABCを買収したことによりスポーツ専門チャンネルであるESPNも傘下に入るなど、スポーツというコンテンツもディズニーを構成する要素なのである。広い裾野をもって消費者との接点を多く作っていることもディズニー社の特徴と言えるのかもしれない。
 
6 ESPN Why do Super Bowl winners go to Disney? 2024/02/12
https://www.espn.com/nfl/story/_/id/39387632/why-do-super-bowl-winners-go-disney

生活研究部   研究員

廣瀨 涼(ひろせ りょう)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴

【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
     ニッセイ基礎研究所入社

・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会

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