疾病の罹患や加齢にともなう症状に関する不安と、その9年間の変化。

2023年12月27日

(村松 容子) 医療

1――はじめに

医療、介護の環境が大きく変化している。この10年を振り返れば、平均寿命は男女とも1年以上延伸し、高齢化率は5ポイント上昇している。高齢化や医療技術の進歩にともなって医療費が高騰しており2022年の医療費は、2012年と比べて1.2倍にまで上昇している。

高齢化や、慢性疾患の増加にともなって疾病構造が変わってきただけでなく、地域によって高齢化のスピードや必要な病床が異なることを踏まえて、地域の実情にあわせた医療・介護等計画をたてる等、医療や介護政策も地域差を重視するようになるなど、医療等を受ける環境が変わってきた。SNSの普及にともない、疾病等に関する情報の収集方法も変わってきている。また、最近では新型コロナウイルス感染症の流行と、それにともなう健康上の不安や医療機関のひっ迫などを目の当たりとして、疾病等に関する不安や医療・介護サービスを受ける際の不安も変わってきていると考えられる。

そこで本稿では、ニッセイ基礎研究所が2023年6月に実施した「生活に関する調査1」と2014年8月に実施した「日常生活における不安等に関する調査2」を使ってこの9年間の変化を紹介する。
 
1 「生活に関するアンケート」学生を除く全国に住む 20~79歳の男女を対象とするインターネット調査。実施時期は2023年6月、有効回答2,583(男性1,288、女性1,295)。
2 「日常生活における不安等に関する調査」学生を除く全国に住む 20~69歳の男女を対象とするインターネット調査。実施時期は2014年8月、有効回答4,131(男性2,051、女性2,080)。

2――不安に感じる人が多い疾病や症状

2――不安に感じる人が多い疾病や症状

1「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」「 認知症になる」「ガン、心疾患、脳血管疾患にかかる」への不安が高い
まず、疾病等の罹患や加齢にともなう症状に関する不安として9項目をあげ、それぞれどの程度不安に感じるか、「不安でない」「あまり不安でない」「どちらともいえない」「やや不安である」「不安である」および「該当しない」の6段階で回答を得た。

図表1に、各不安について、「不安である」または「やや不安である」と回答した割合を示す。
全体では、「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」「認知症になる」「ガン、心疾患、脳血管疾患にかかる」がいずれも6割程度と高く、「長期の入院・通院を要する病気にかかったり、ケガをする 」「病気・ケガによって(後遺)障害(身体・精神)がのこる」「糖尿病、高血圧など上記以外の生活習慣病にかかる (上記とは、ガン、心疾患、脳血管疾患のこと)」が半数を超えた。

男女別にみると、すべての項目で女性が男性を上回った。特に「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」「認知症になる」は女性が15ポイント前後上回った。年齢群別にみると、全体で不安を感じる人が多かった上位3項目である「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」「認知症になる」「ガン、心疾患、脳血管疾患にかかる」は年齢が高いほど高く、50歳以上が全体と比べて有意に高かった。「病気・ケガによって(後遺)障害(身体・精神)がのこる」「感染症・伝染性の病気にかかる」も年齢があがるほど高く、65歳以上が全体と比べて有意に高かった。また、「長期の入院・通院を要する病気にかかったり、ケガをする」「糖尿病・高血圧など上記以外の生活習慣病にかかる」は、50~64歳が全体と比べて有意に高かった。一方、「メンタルヘルスを損なう」は20~69歳(特に、35~49歳)が全体と比べて高く、「後天性難病にかかる」は年齢による大きな差はなかった。なお、20~34歳では「メンタルヘルスを損なう」が「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」や「糖尿病、高血圧など上記以外の生活習慣病にかかる」を上回り5番目にあげられた点が特徴的だった。
2この9年間で、「感染症・伝染性の病気」「認知症」「メンタルヘルス」の不安が上昇
続いてこの結果を、2014年に同じ不安項目について尋ねた結果と比較したところ3、4つの不安項目で有意な差(5%水準)があり、「認知症になる」が2.1ポイント、「感染症・伝染性の病気にかかる」が11.7ポイント、「メンタルヘルスを損なう」が3.2ポイント上がり、「後天性難病にかかる」が3.6ポイント低下していた。
2014年に行った調査(以下、「前回調査」とする。)と差があったこの4項目について、性別、年齢群別に結果を比較すると、「認知症になる」は男女とも20~69歳の多くの年代で前回調査と比べて少しずつ上昇していた(図表3)。「感染症・伝染性の病気にかかる」も男女とも20~69歳で上昇していたが、前回調査では、若年齢ほど不安を感じる割合が高かったのに対し、今回調査では高年齢ほど不安を感じる割合が高く、前回調査からの上昇幅は年齢が高いほど大きかった。「メンタルヘルスを損なう」も男女とも上昇していたが、年齢別にみると20~49歳では大きな差はなく、50~69歳で上昇幅が大きかった。最後に「後天性難病にかかる」は男女とも20~69歳で前回調査と比べて少しずつ低下していたが、特に若年での低下が大きかった。

「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」「ガン、心疾患、脳血管疾患にかかる」「長期の入院・通院を要する病気にかかったり、ケガをする 」「病気・ケガによって(後遺)障害(身体・精神)がのこる」「糖尿病、高血圧など上記以外の生活習慣病にかかる」については、性別、年齢群別にみても特に大きな差は見られなかった。
 
3 前回調査は20~69歳を対象に実施したので、今回調査についても20~69歳を対象に集計した結果と比較した。

3――おわりに

3――おわりに

以上のとおり、疾病罹患や加齢にともなう症状に関する不安の有無を尋ねたところ、「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」「認知症になる」「ガン、心疾患、脳血管疾患にかかる」の順に不安を感じる人の割合が高かった。いずれも高年齢ほど不安を感じる割合は高かった。年齢群別にみても、不安を感じる順位はおおむね同じであるが、20~34歳では「メンタルヘルスを損なう」が「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」や「糖尿病、高血圧など上記以外の生活習慣病にかかる」を上回って高かった点が特徴的だった。20~34歳では全体ではもっとも不安が高かった「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」が7番目にあげられていることから、生活習慣病や認知症になることと比べて想像しにくい症状だと考えられる。

前回調査(2014年)の結果と比較すると、「認知症になる」「感染症・伝染性の病気にかかる」「メンタルヘルスを損なう」「後天性難病にかかる」で不安を感じる割合に差があった。差がもっとも大きかったのが「感染症・伝染性の病気にかかる」で、前回調査と比べて11.7ポイント上昇していた。既存の感染症については、若い世代が免疫をもたない感染症や、子どもが特にうつりやすい感染性の病気が多いこと、生活習慣病や加齢にともなう症状等のリスクが相対的に低いことなどから、前回調査ではどちらかと言えば若年齢で不安が高い傾向があったが、新型コロナウイルス感染症では、高年齢者の健康被害が大きかったことから、今回調査では高年齢で不安を感じる人が多く、特に高年齢者で前回調査との差が大きくなったと考えられる。

「認知症になる」は多くの年代で少しずつ上昇しており、この9年間で幅広い年代で不安が高まったと考えられる。高齢化がさらに進み、高齢者の行方不明者の増加が課題になる等、認知機能が低下した高齢者を見聞きする機会が増えていること等が背景として考えられる。「メンタルヘルスを損なう」は、前回調査も今回調査も、40歳代をピークとしながらも20~49歳までが高く、40歳以上では年齢が高くなるほど低下する傾向があるという点では変わらないが、今回調査では50~69歳で上昇していた。以前と比べて高齢になっても社会のプレッシャーが大きいのかもしれない。「後天性難病にかかる」は20歳代を除いて低下、特に30~49歳で低下していた4

なお、健康日本21(第二次)の最終報告によれば、ガン、心疾患、脳血管疾患や高血圧、糖尿病といった生活習慣病については、この10年ほどでがんの年齢調整死亡率や脳血管疾患・虚血性心疾患の年齢調整死亡率の減少、血糖コントロール不調者割合の減少などの改善があったが、今回の調査では前回調査と大きな変化は見られなかった。生活習慣病は、その後の生活にも影響を与える疾病であるため、死亡率が改善したとしても、従前と変わらず不安を感じている可能性がある。一方で、厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」によると、人々は、ガンについて、今なお、稀な病気だと考える傾向があることや、ガン患者の生存率を現実より低く見積もる傾向があり、人々のがんに対するイメージは従前と変わっていないことが指摘されている。同様に、他の生活習慣病についても不安は軽減しにくい可能性がある。
 
4 「後天性難病にかかる」を不安に思う割合が低下した理由はわからないが、2014年に「難病の患者に対する医療等に関する法律」が成立し、指定難病が定められたこと等により、前回調査を行った2014年には難病に関する記事や話題が多かった可能性があり不安を感じる人がいたかもしれない。
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