(2) 保険企業等の義務
保険企業等の義務は以下の通りである(保険事業法20条2項)。
a) 保険契約者に書面による保険金請求書を提供し、また保険のリスク、目的、規則、条件についての質問書(questionnaire)を提供すること:
―英訳文の意味が非常にあいまいであるが、筆者としては、おそらく保険企業等が保険契約者に対して、契約上のルール、契約条件に照らして、保険のリスク、保険の目的物について書面で問い合わせることを目的としたものと理解しておきたい
6。上記(1)b)に対応するものと考える。日本で該当するのは告知義務であるが、保険法では告知のやり取りは書面でなければならないという法的制限はない(電磁的方法でもよい)。ただし、保険企業等が質問し、保険契約者が回答するということは、ネット保険事業者等を除けば通常は書面によって行われると思われる。
b) 保険契約者に対して明確かつ十分に、保険金、保険の免責、保険契約加入による保険契約者の権利と義務に関して説明すること:
―保険法には定めがないが、保険業法294条に保険企業等から保険契約者等への情報提供義務が定められており、これと同趣旨の規定と考えられる。
c) 保険事業法18条に定める保険証券を保険契約加入の証拠として保険契約者に提供すること:
―保険法8条、40条、69条は保険企業等が保険証券を保険契約者に提供すべきことを定めており
7、これらと同趣旨の規定と考えられる。
d) 保険証券と該当法令にしたがって保険契約者に保険料請求書を発行すること:
―保険料の請求書交付を義務することは保険法では定められていない。保険事業法に特徴的な条文である。
e) 保険事故発生時に補償し、あるいは保険金を支払うこと:
―保険法2条1号は保険契約の定義として「財産上の給付を行うことを約」するものであるとしていることから同様の義務を規定していると考えられる。
f) 補償または保険金の支払いを拒絶した際に書面で説明すること:
―この点については保険法に規定がない。ただ、実務では、保険事故に相当する事案があって、保険金支払いを拒絶する場合は、後日の証拠という意味も含めて書面あるいは電磁的にその理由を示すだろうから、結果的に違いはないと言えそうである。
g) (英訳文意不明)
h) 法律に則り保険契約の記録を保管すること:
―この点について、保険法に同様の規定はない。ただし、保険法では保険契約の請求権の時効が3年間(95条1項)であり、また請求書などの税務上の保管期限が7年(法人税法施行規則第67条の2)なので、日本では少なくともこれらの期間は保管されているものと思われる。
i) 政府からの要請または保険契約者・被保険者の同意がある場合を除き、保険契約者と被保険者から提供された情報の秘匿:
―日本における情報の秘匿は個人情報保護法27条(第三者提供の制限)、および保険業法施行規則53条の8(個人顧客情報の安全管理措置等)に定められている。なお、保険事業法で政府からの要請で情報を提供できるとされている点に関連して、ベトナムにおいてどのような政府要請がなされるのかが不明である点に留意が必要である
8。
j) (英文訳に記載がない)
k) 法律で定められた他の義務
6 別の翻訳ソフトでベトナム語⇒日本語に訳した内容も踏まえて約している。
7 ただし、保険法の規定は任意規定である(=発行しなくてもよい)。
8 日本では「国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき」に限定されている(個人情報保護法27条1項4号)。